士業事務所の看板の作り方
名乗り方から決める5ステップ
これから事務所を開く方、移転して看板をそろえる方へ。 士業の看板は、通りかかった人を呼び込む道具ではありません。 名前を調べて連絡をくれた方が、約束の日に扉まで着くための道具です。
来訪を3つに分け、要る面の数を決める手順/ 事務所に置ける6種類の面と、その働き/ 名称と資格の名乗り方を、どこへ確認するか/ 距離から文字の高さを出す方法/ 案内板の区画から、入る字数を逆算する計算/ 年のコストを何か月に1件へ翻訳する式/ 届いていないとき、費用をかけずに疑う順序
士業の看板は、通りすがりを呼びません
看板の相談で多いのが、目立つ形にしたいというご要望です。 飲食や物販の店なら、目立つほど入る人が増えます。 士業の事務所では、その関係が成り立ちません。
看板を見て、その場で相談を決める方はまれです。 名前を調べ、連絡を取り、日を決めてから来られます。 看板が引き受けるのは、そこから先の二つです。 事務所が実在していると分かること。約束の日に、迷わず扉まで届くこと。
この前提を置かずに作ると、こうなります。 道から見える一枚だけを用意し、扉の場所が伝わらない。 案内板の区画に、事務所の名前が入りきらない。 名乗り方を後から直すことになる。 大きく出したところ、来訪者から控えてほしいと言われる。
経路を分け、名称の扱いを確かめ、目立たせる度合いを決め、費用を計算し、 たどり着けているかを測る。この五つを順に埋めます。
訪問者を迷わせない面の作り方は、 オフィス・事務所の看板にまとめています。 ここでは、士業の事務所だけに当てはまる三点を扱います。
来訪の経路を分けて、必要な面を決める
誰が来るかで、要る面の数が変わります。
- 1日を決めて訪ねてくる方
名前も場所も、来る前に調べています。要るのは、着いたことを確かめる表示です。
- 2予約なしで訪ねてくる方
書類を届けに来た方、近隣の方、配達の方です。郵便受けと呼び鈴の表示が手がかりになります。
- 3同じ建物の別の階へ行く方
目的は別のテナントです。階と部屋番号を出しておくと、間違って扉を叩かれずに済みます。
いちばん多いのは一番目です。この方は場所を調べ終えて来ます。 要るのは、着いた場所が合っていると確かめさせる面です。 三番目を数に入れておくと、応対に取られる時間が減ります。
置ける面は6種類ある
道や歩道から建物を指し示します。載せるのは事務所の名前だけで足ります。
入口に並ぶテナント表示です。区画の寸法は建物側で決まり、字数に上限が出ます。
階段や昇降機を降りた所に置きます。矢印一つで済むこともあります。
名称と、開いている時間を載せます。小さくても、到達を決めるのはここです。
最小の面ですが、予約なしの来訪はここで判断されます。
扉を入ってすぐの面です。声をかける先が分かります。
六つ全部を作る事務所は多くありません。 経路が一本なら、外から見える面と扉の脇の一枚で足ります。 面は、来訪者の足が止まる場所にだけ置きます。
初めて来た人のつもりで、建物の前から扉まで進んでください。 立ち止まった地点が、面を置く候補です。
載せる名称と表示の範囲を確かめる
図面を描く前に、載せてよい言葉の輪郭を取ります。
看板に載る文字の中心は、事務所の名称と資格の名称です。 どちらも、付け方と名乗り方に定めがあります。 定めの中身は、資格の種類によって違います。
| 載せる候補 | 看板での扱い | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 事務所の名称 | 登録した名称とそろえる | 登録の内容 |
| 資格の名称 | 名乗り方の定めを先に見る | 所属する会の会則 |
| 取り扱う業務 | 受けられる範囲に合わせる | 連合会が出す指針 |
| 実績や件数の表示 | 数え方を説明できるかで決める | 所属する会の窓口 |
| 費用に関する表示 | 条件が抜けると意味が変わる | 所属する会の会則 |
上の二行は、ほぼすべての事務所に関わります。下の三行は、載せるかどうかを選べます。
表示できる名称と、書ける内容の範囲は、資格の種類と所属する団体で扱いが分かれます。 ある資格で認められる書き方が、別の資格では認められないこともあります。 そのため、この記事では資格別の可否を書いていません。 図面を確定する前に、所属する会や連合会の定めをご確認ください。
書ける内容が先に決まる構造は、医療の看板にも共通します。当てはめる定めは別のもので、 手順はクリニックの看板にまとめています。
事務所名の字数が、面の幅を決める
資格の名称を事務所名に含めると字数が伸び、面の幅に跳ね返ります。 文字の高さを6cmとすると、10文字で 6cm × 10 の60cm。 同じ60cmに8文字なら、600mm ÷ 8 で75mm。1字7.5cmです。 面を広げるより、字を減らすほうが早く効きます。
| 読ませる場面 | 見る距離 | 必要な文字の高さ |
|---|---|---|
| 建物を外から見つける | およそ15m先 | 3〜6cm |
| 入口へ近づいて確かめる | およそ10m先 | 2〜4cm |
| 扉の脇の一枚を読む | およそ5m先 | 1〜2cm |
| 集合案内板を読む | およそ1m先 | 0.5cm もあれば届く |
必要な文字の高さは、読ませたい距離の250分の1から500分の1が目安です。 15m先なら、15,000mm ÷ 500 で30mm、15,000mm ÷ 250 で60mm。3cmから6cmになります。 書体と明暗差で変わるため、迷うときは大きいほうを取ってください。
区画の高さを3cm、幅を30cmと置きます。3cm角の字を並べるなら、30 ÷ 3 で10文字です。
名称が12文字あると幅に収まらず、略されるか二段に折られます。
二段に折ると、1字はおよそ 3cm ÷ 2 で1.5cm。
15mmなら 15 × 250 で3,750mm、15 × 500 で7,500mm。3mから7m先まで読める計算です。
1mほどで読む面ですから、小さくなること自体は困りません。
困るのは、幅に収まらず名称が略されるほうです。
※ 区画の寸法は建物ごとに違います。入居前に実寸をお確かめください。
どこまで略してよいかは、名乗り方の定めと合わせて確かめてください。
目立たせる度合いと位置を決める
大きく出すほど良い、とはなりません。控えるほうが正解の事務所もあります。
相談の中身を人に知られたくない方がいます。 事務所の前で足を止めたところを見られる。 この不安があると、扉の手前で引き返す方が出ます。 看板の位置と大きさは、そこに効きます。
| 事務所の性格 | 寄せる方向 | 面の扱い |
|---|---|---|
| 書類の手続きが中心 | 見つけやすさへ寄せる | 外から読める面を厚くする |
| 個人の事情を扱う相談 | 落ち着きへ寄せる | 外の面は名称だけに絞る |
| 企業との続く取引 | どちらも薄くてよい | 案内板と扉の脇で足りる |
| 住居と同じ建物にある | 落ち着きへ寄せる | 光る面と突き出す面を避ける |
| 上の階に入っている | 見つけやすさへ寄せる | 階の表示を入口へ置く |
両方が混ざるなら、外の面を落ち着き側へ、室内の面を見つけやすさ側へ振ります。
「見える」と「見えすぎる」を分けて決める
外の面に相談の種類を並べると、来訪の目的が外から推し量れてしまいます。 外へ出すのは、たどり着くために要る情報だけです。 削った内容は、室内の待つ場所へ移してください。
扉の前に立つ時間が短いほど、人目に触れる時間も短くなります。 呼び鈴の位置、扉の開く向き、待つ場所の作り。この三つのほうが効きます。 看板が引き受けられるのは、迷って立ち止まる時間を削るところまでです。
看板の大きさや設置場所には、地域ごとの制限がかかります。
県の条例が適用される地域と、市が独自の条例を持つ地域があります。
会の定めを確認しても、掲出の可否は別に調べる必要があります。
※ 図面を確定する前に、管轄の窓口へご確認ください。
費用と、1件あたりの回収を計算する
看板は、年に何件で釣り合うかへ翻訳できます。
年のコスト ÷ 1件あたりの粗利 = 年に必要な新しい件数
12 ÷ 年に必要な件数 = 何か月に1件でトントンか
1件あたりの粗利を10,000円、看板にかかる年のコストを60,000円と置きます。 60,000 ÷ 10,000 で6。年に6件の新しい依頼で釣り合う計算です。
12 ÷ 6 で2。2か月に1件でトントン、という見え方になります。 年の件数のままでは判断しにくいため、月に直します。
10,000円と60,000円は、式の動きを見るための仮の置き方です。 報酬の水準を示すものではありません。 自分の事務所の数字に差し替えてください。
続く仕事は、年の粗利に置き換える
毎月の顧問料のように取引が続くなら、1件あたりの粗利を1年分に置き換えます。 分母が大きくなるぶん、必要な件数は減ります。 単発と継続が混ざるなら、二つに分けて計算します。
費用を左右するところ
| 面の数 | 建物の外、集合案内板、扉の脇。作る面の数が金額に乗ります。 |
|---|---|
| 事務所名の字数 | 字数が増えるほど面の幅が要ります。削れば一字を大きく取れます。 |
| 取り付ける場所 | 建物の外壁と、室内の扉の脇では工事の手間が違います。 |
| 光らせるかどうか | 電気を引く工事が加わります。夜に読ませるかで決めます。 |
| 原状回復の条件 | 借りている建物では、外すときにかかる分まで含めます。 |
二行目は、足すのではなく削ることで効いてきます。 掲載社が公式サイトで公開している金額は、看板の費用に種類別にまとめています。
最終行は、借りている建物のときだけ効きます。 外壁に穴を開ける工事は、退去時に埋め戻す分まで見積もりに入ります。
たどり着けているかを測って直す
数えるのは依頼の件数ではありません。届いたかどうかです。
遅れて着く方が続くなら、経路のどこかが切れています。日誌に印を付けるだけで足ります。
建物の前で電話が届くなら、外から見える面が働いていません。月ごとに並べます。
呼び鈴の前で迷う方がいるかを見ます。郵便受けの表示で足りているかも分かります。
間違って扉を叩かれるなら、階と部屋番号の表示が届いていません。
初めて来た人のつもりで、道から扉まで進みます。立ち止まった所が直す場所です。
遅れて着いた方の数が、いちばん早く出る合図です。
判断のタイミング
| 図面の段階 | 道から扉まで歩き、面の位置を確かめます。費用はかかりません。 |
|---|---|
| 1か月 | 着いてからの連絡が減ったかを見ます。件数はまだ少ない時期です。 |
| 3か月 | 遅れて着いた方の割合を、前の期間と並べます。 |
| 半年 | 予約なしの来訪と、間違った来訪を合わせて見ます。 |
| 1年 | 面ごとの働きを見比べ、減らす面を決めます。 |
1か月で依頼の数を見て決めるのは筋が違います。 看板は依頼を作る道具ではなく、決まった来訪を完了させる道具だからです。
届いていないとき、この順で疑う
- 1歩いてみたかを疑う
道から扉まで進んでみます。切れている場所の多くは、ここで見つかります。
- 2事務所名の字数を疑う
外に出す名称を短くできるかを見ます。字を減らすと、面を替えずに一字が大きくなります。
- 3案内の言葉の順番を疑う
階、部屋番号、名称。訪ねる人が探す順に並べ替えます。板の作り直しは要りません。
- 4面の高さを疑う
見上げる位置にあると、近づいたときに視界から外れます。下げるだけで届くことがあります。
- 5夜と休日の見え方を疑う
建物の照明が落ちる時間帯に、外から読めるかを見ます。
- 6面を作り替える
ここまでで動かないときに検討します。かかる額がいちばん大きいため、最後に置いています。
上から順に、かかる額が小さいものが並びます。 1番から3番は、歩く、削る、並べ替えるだけで終わります。 6番が作り替えです。進む前に、上の五つを通してください。
よくある失敗5パターン
どれも、図面の段階で気づけば直せます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 道から見える一枚だけを作った | 建物には着くが扉が分からない | 扉の脇に名称の一枚を足す。小さい面で足りる |
| 長い名称のまま案内板へ出した | 区画に入りきらず略される | 外に出す名称を短くし、正式な表記は扉の脇へ |
| 外の面に相談の種類を並べた | 来訪の目的が推し量れる | 業務の表示を室内へ移し、外は名称だけに絞る |
| 名乗り方を確かめずに発注した | 掛け替えの手間と費用が出る | 図面の段階で、所属する会の定めに当てる |
| 階と部屋番号を入れなかった | 別のテナントへ入る方が出る | 案内板の区画に、階と番号を書き足す |
セルフチェックリスト
図面が出てきた段階で使ってください。5つ以上「いいえ」があれば、見直しの余地があります。
- 予約あり、予約なし、別の階へ行く方の三つに来訪を分けた
- 建物の前から扉まで、初めて来た人のつもりで歩いた
- 立ち止まった場所ごとに、置く面を決めた
- 建物の外から見える面に、事務所の名前が入っている
- 集合案内板の区画の実寸を測った
- 外に出す名称の字数を数えた
- 資格の名称の書き方を、所属する会の定めに当てた
- 取り扱う業務の表示を、受けられる範囲に合わせた
- 外の面から、相談の種類が読み取れないと確かめた
- 扉の脇の一枚に、開いている時間を載せた
- 掲出の制限を、管轄の窓口に問い合わせた
- 年のコストを1件あたりの粗利で割り、必要な件数を出した
よくある質問
士業事務所の看板は、何から決めればいいですか?
文字はどれくらいの大きさが要りますか?
資格の名称や取り扱う業務は、看板に書けますか?
効果はいつ判断すればいいですか?
すでに看板があり、来訪者が迷う場合は?
予算が限られる場合、何を優先しますか?
まとめ
士業の事務所の看板は、次の順序で決めていきます。
| 1 経路を分ける | 予約あり、予約なし、別の階へ行く方の三つに割る。 |
|---|---|
| 2 名称を確かめる | 名乗り方を、所属する会の定めに当てる。 |
| 3 度合いを決める | 見つけやすさと落ち着き。どちらへ寄せるかを選ぶ。 |
| 4 計算する | 年のコストを1件あたりの粗利で割る。 |
| 5 測る | 遅れて着いた方と、着いてからの連絡を数える。 |
看板が呼ぶのではなく、決まった来訪を届けます。 外へ出す文字は、たどり着くために要るものだけに絞ってください。