看板の文言の決め方
載せる言葉を削る6ステップ
これから看板の原稿を作る方、いまの看板の文言を見直す方へ。 看板が見られる時間は、長くて数秒です。 文言を決める作業は、足す作業ではなく削る作業です。
看板に載せる候補を、もれなく書き出す手順/ 見られる秒数から、1枚に置ける字数の上限を出す計算/ 残す3つと、削る5つの順序/ 業種ごとに定められている広告の決まりの確かめ方/ 作り替える費用を月あたりに直し、必要な客数を出す計算式/ 貼り替えた後に、届いたかどうかを測る5つの方法
看板の原稿づくりは、削る作業です
看板の相談で多いのが「これも入れておきたい」という要望です。 載せたいことは、たいてい紙面より多くあります。 入れるほど文字は小さくなり、結果としてどれも読まれなくなります。
削らないまま出すと、こうなります。屋号だけが大きく、何の店か分からない。 強みが3つ並び、どれも記憶に残らない。営業時間まで載せたため、遠くから読めない。 造語を業種の位置に置いてしまい、意味が伝わらない。
候補を書き出し、字数の上限を出し、3つまで削り、書ける内容を確かめ、 費用を月あたりに直し、貼り替えて測る。 この6つで、面に残す語が決まります。
扱うのは「何を書くか」だけです。色や書体の選び方、文字の配置は別の記事にまとめてあります。 広告の決まりは業種と地域で異なりますので、管轄の窓口や専門家へご確認ください。
載せたい候補を、まず全部書き出す
削る作業は、候補がそろってから始まります。
いきなり看板の文を考えないでください。 整った言い方を先に作ると、そこから動かせなくなります。 紙に候補を並べてから選ぶほうが、残した語の理由を説明できます。
- 1屋号を、看板に出す形で書く
正式名称と、呼ばれている名前が違うことがあります。客が口にするほうを書きます。
- 2何を売る店かを、5字以内で書く
業種を表す語です。屋号だけでは、何の店か分かりません。ここが抜けると素通りされます。
- 3来てほしい人を1行で書く
看板に載せる文ではありません。この後で候補を削るときの、判断のよりどころになります。
- 4他店と違う点を3つ書く
設備、扱う品、営業時間、対応できる時間帯。あとで1つに絞るので、まず3つ出します。
- 5入る前に知りたいことを並べる
価格帯、予約の要否、駐車場、支払い方法。客が扉の前で迷う中身がここに入ります。
- 6連絡の手段を書き出す
電話番号、地図、受付時間。載せる面が別になることが多いので、分けて書き出します。
3番目は看板に載せません。 後の工程で候補を削るとき、判断のよりどころとして使います。 誰に向けた店かが決まっていないと、どれを残すかで迷い続けます。
他店と違う点は、自分で考えるより客から拾うほうが早くなります。 直近1年で褒められた言葉を思い出してください。 客が使った言葉は、そのまま通行人にも通じます。
見られる秒数から、字数の上限を出す
面ごとに上限が違います。同じ原稿を使い回せません。
字数の上限は、感覚ではなく秒数から出せます。 日本語の黙読は1分あたり400〜600字と言われます。 中ほどの500字を60で割ると8.33。1秒に読めるのは、およそ8字です。
見られる秒数 × 8 = その面に置ける字数
| 見る条件 | 見られる時間 | 字数の上限 |
|---|---|---|
| 走る車から見る | 約2秒 | 16字 |
| 歩いて通り過ぎる | 約4秒 | 32字 |
| 立ち止まって見る | 約10秒 | 80字 |
| 扉の前で読む | 制限なし | 削る理由がない |
走る車から見る面は、2秒として16字です。 歩いて通り過ぎる面は4秒で32字になります。 立ち止まって見るメニューの面なら、80字まで置けます。
読める速さは、書体、明暗差、照明の有無、見る人の年齢で変わります。 細い書体や、地色と文字色の差が小さい面では、同じ字数でも読み切れません。 迷うときは上限より少なく置いてください。
秒数は、実際に現地で測ると確かになります。 看板が視界に入ってから通り過ぎるまでを、何度か数えてください。 見え始める位置の決め方は看板広告の作り方ガイドにまとめてあります。
遠くから見る面には、3つだけ残す
残すのは屋号・業種・決め手です。ほかは別の面に移します。
覚えて帰ってもらう語です。読み方が難しい屋号は、かなを小さく添えます。二度目の来店は、この語を思い出せるかで決まります。
何の店かを表す語を1つだけ置きます。「カフェ」「整体」のような、説明のいらない語が働きます。造語を業種の位置に置くと伝わりません。
他店と違う点のうち、通りすがりの人が価値を判断できるものを1つ選びます。3つ並べると、どれも記憶に残りません。
業種を表す語は、屋号より優先されます。 屋号だけの看板は、何の店か分からないまま通り過ぎられます。 知られていない店ほど、業種の語が働きます。
削る順序
上から順に消していくと、迷いが減ります。 1番と2番だけで、たいていの原稿は上限に収まります。
- 1飾りの言葉を消す
「厳選」「こだわりの」「本格」。読む人の判断は変わりません。字数だけを使います。
- 2調べれば分かることを消す
営業時間、定休日、支払い方法。扉の前の小さな面に移します。遠くから読ませる面には要りません。
- 3二重に言っている語を1つにする
「新鮮な朝どれ野菜」は「朝どれ野菜」で足ります。修飾を重ねるほど、文字が小さくなります。
- 43つ並んだ強みを1つにする
選べないなら、直近1年でいちばん多く褒められた点を採ります。客の言葉が、そのまま候補になります。
- 5連絡先を別の面へ移す
電話番号は、遠くからは読めません。近づいた人が見る面か、扉のそばに置きます。
消した語は捨てないでください。 扉のそばの小さな面、店内の表示、印刷物に置き場所があります。 消すのではなく、読まれる距離の面へ移すという作業です。
読み方が難しい屋号の扱い
口に出せない名前は、人から人へ伝わりません。 読みを小さく添えるだけで、この問題は消えます。 添える位置は屋号の上か下です。横に置くと、屋号の一部に見えます。
専門用語を看板に出すときも同じです。 使った直後に、ふつうの言い方を括弧で添えてください。 文字数は増えますが、通じない語を大きく出すよりは働きます。
書ける内容かどうかを確かめる
確かめるのは5つです。作り終えてから直すと、板ごと替えることになります。
文言には、業種によって決まりが設けられている場合があります。 看板は一度掲げると長く残るため、印刷物より影響が長く続きます。 原稿が固まった段階で、掲げてよい内容かを確かめてください。
| 業種ごとの広告の決まり | 医療、不動産、金融、士業などは、書ける内容が定められている場合があります。 |
|---|---|
| 最上級の言い方 | 「日本一」「No.1」は、根拠の提示を求められることがあります。 |
| 価格の書き方 | 税の扱いや、条件つきの価格の書き方に決まりがある場合があります。 |
| 効果や結果を示す言い方 | 個人差のあることを断定すると、指摘を受ける場合があります。 |
| 屋外広告物としての扱い | 文言ではなく面の大きさと位置に、届出や許可が要る場合があります。 |
「日本一」「地域No.1」のような表示は、そう言える根拠の提示を求められることがあります。 調査の名称、調査した時期、対象の範囲を示せないなら、使わないほうが安全です。 言い換えれば済むことが多く、字数も減ります。
面の大きさや位置には、文言とは別に屋外広告物の扱いがあります。 県の条例が適用される地域と、市が独自の条例を持つ地域があります。 手続きの流れは屋外広告物の許可にまとめてあります。
文言に業種名を出すことが、契約で制限されている場合があります。 原稿を業者に渡す前に、掲げてよい内容を貸主に確かめてください。 後から直すと、板ごと作り替えになります。
作り替える費用を、月あたりに直す
文言だけを直すのか、板ごと替えるのかで金額が変わります。
月あたりの費用 ÷ (客単価 × 粗利率) = 月に必要な新規客数
文言の見直しは、貼り替えで済む場合と、板ごと替える場合に分かれます。 先に月あたりへ直しておくと、どちらを選ぶかの判断が早くなります。
埋める数字は4つ
| 作り替える面の費用 | 文言だけを直すのか、板ごと替えるのかで大きく変わります。 |
|---|---|
| 使う年数 | 文言は設備や品ぞろえが変われば古くなります。板の寿命より短く見ます。 |
| 客単価 | 1人が1回で使う金額。売上を客数で割れば出ます。 |
| 粗利率 | 売上から仕入れと材料費を引いて残る割合。 |
体感できる単位まで落とす
板ごと作り替える費用を18万円、使う年数を6年と置きます。 180,000を6で割ると30,000円。これを12で割って、月あたり2,500円です。
客単価を4,000円、粗利率を5割とします。 4,000に0.5を掛けて、1人あたり2,000円。 2,500を2,000で割ると1.25で、月に約1.25人です。 30を1.25で割ると24。およそ24日に1人、新しい客が増えればつり合います。
置いた金額は計算の置き方であり、相場ではありません。 自分の店の数字を入れて、もう一度計算してください。 掲載社が公開している金額は看板の費用に種類別にまとめてあります。
文言は、扱う品や営業時間が変われば古くなります。 板の寿命より短い年数で見ておくと、後から慌てません。 貼り替えで直せる作りにしておけば、この年数はもっと短くできます。
貼り替えた後に、届いたかを測る
文言は、直した結果がいちばん早く出る部分です。
会計のときに一言尋ねます。看板の語と答えがずれていれば、業種の語が働いていません。費用はかかりません。
同じ曜日、同じ時間帯で15分だけ数えます。貼り替えの前後で比べれば、文言の効き目が分かります。
会計時に「初めてですか」と尋ねて数えます。文言が届いているなら、この割合が動きます。
価格、営業時間、扱う品。同じ質問が続くなら、その答えが看板から抜けています。
知人に一度だけ看板を見せ、翌日に屋号を尋ねます。思い出せなければ、字数が多すぎます。
1つ目は、会計のときの一言だけで済みます。
判断のタイミング
| 最初の2週間 | 入店した人への聞き取りを続けます。語のずれはここで出ます。 |
|---|---|
| 1か月 | 通行と入店の数を、貼り替え前と比べます。 |
| 3か月 | 初めての客の割合を見ます。季節の影響が混じるため、前年と並べます。 |
| 1年 | 扱う品や営業時間が変わっていないかを確かめ、文言を点検します。 |
数えた日付は紙に残してください。 文言は少しずつ手を入れるため、いつ何を替えたかが分からなくなります。 替えた日と替えた語を並べて書くだけで足ります。
効いていないときは、この順で疑う
- 1業種の語を替える
小さな面なら、貼り替えだけで済みます。「ダイニング」を「定食」に替えるだけで、通行人の反応が変わることがあります。
- 2字数を削る
読めていない原因は、文字の小ささではなく行数です。上限を超えているなら、決め手の1つを外します。
- 3決め手を入れ替える
選んだ1つが、通りすがりの人には判断できない内容だったという場合があります。客に褒められた点に差し替えます。
- 4連絡先や営業時間を別の面へ移す
遠くから読ませる面に細かい情報が残っていると、主役の語が小さくなります。近くの面へ移します。
- 5文字を大きくする
ここで初めて、板の作り替えに近づきます。削った後なら、同じ面でも文字は大きくできます。
- 6面そのものを作り替える
上の5つを試したうえで決めます。作り替えは、いちばん最後に置いてください。
並びは、費用のかからないものからです。 1番から4番までは貼り替えの範囲で終わります。 板を作り替えるのは、最後に置いてあります。
よくある行き違い5パターン
どれも、板を替えずに手を打てます。
| 行き違い | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 屋号だけを大きく出した | 何の店か分からず素通りされる | 業種を表す語を5字以内で足す |
| 強みを3つ並べた | どれも記憶に残らない | 1つに絞り、残りは店内の表示へ移す |
| 営業時間を遠くの面に入れた | 主役の語が小さくなる | 扉のそばの面へ移す |
| 造語を業種の位置に置いた | 意味が伝わらない | 説明のいらない語に替える |
| 読みにくい屋号をそのまま出した | 口に出せず、人に伝わらない | かなを小さく添える |
セルフチェックリスト
業者に原稿を渡す前に使ってください。5つ以上「いいえ」があれば、決め直す余地があります。
- 屋号を、客が口にしているほうの形で書いた
- 何を売る店かを、5字以内の語で決めた
- 来てほしい人を1行で書き出した
- 他店と違う点を3つ書き出し、1つに絞った
- 看板が見られる時間を、秒で見積もった
- 面ごとの字数の上限を決めた
- 飾りの言葉を消した
- 二重に言っている語を1つにした
- 連絡先と営業時間を、近くで見る面へ移した
- 業種ごとの広告の決まりを窓口や専門家に尋ねた
- 最上級の言い方を使う場合、根拠を用意した
- 知人に見せ、翌日に屋号を思い出せるか試した
よくある質問
看板の文言は、何から決めればいいですか?
1枚に何字まで載せられますか?
書いてはいけない言い方はありますか?
効果は、いつ判断すればいいですか?
すでに出している看板を直すなら、どこからですか?
予算が限られるときの優先順位は?
まとめ
看板の文言を決めるときは、次の順序で進めます。
| 1 書き出す | 屋号、業種、違い、知りたいこと。候補を紙に並べる。 |
|---|---|
| 2 上限を出す | 見られる秒数に8を掛け、面ごとの字数を決める。 |
| 3 削る | 屋号・業種・決め手の3つを残し、ほかは近くの面へ移す。 |
| 4 確かめる | 業種の決まりと、最上級の言い方の根拠を用意する。 |
| 5 計算する | 費用を月に割り、必要な客数まで落とす。 |
| 6 測る | 入店した人に尋ね、語のずれから直す。 |
残す語が3つに収まった時点で、この作業はほぼ終わっています。 あとは削った語を、読まれる距離の面へ配るだけです。 足す方向で悩んでいるうちは、まだ削り足りません。