オフィス・事務所の看板の作り方
訪問者が迷わない5ステップ
これから事務所の看板を用意する方へ。「どこに何を出すのか」「入居しているビルで何が制約になるのか」 「面はいくつ要るのか」。 この3つに順番に答えていきます。
訪問者が止まる4つの区間と、区間ごとに要る面/ 読む距離から必要な文字の高さを出す計算式/ 1つの面に載せる情報を絞る考え方/ 入居ビルの規約と原状回復で確かめる5点/ 面の数から費用を見る式と、時間に直した検算/ 迷っていないかを測る4つの方法と、直す順序
これは、来客を迷わせないための道具です
店舗の看板は、通りがかりの人に気づかせる面です。事務所の看板は役割が違います。 行き先を決めて来た人を、受付まで運ぶための面です。
ご相談で多いのは「エントランスに社名を出したい」というご要望です。 ところが訪問者が止まるのは、その手前と、その先にもあります。 建物が見つからない。入口が2つあって選べない。何階か分からない。降りた先に扉が3つある。
迷う地点を洗い出す。載せる情報を絞る。ビルの規約を確かめる。面の数で費用を見る。測って直す。 この順に進めると、必要な面の数が先に決まります。デザインの話は、そのあとで足ります。
訪問者が迷う地点を洗い出す
面の数は、区間の数で決まります。先に区間を数えてください。
訪問者は住所を頼りに歩いてきます。建物名も社名も外から見えないと、目の前を通り過ぎます。この区間で要るのは、近づいた人が立ち止まれる面です。
入口が2つ以上ある建物では、どの扉かで手が止まります。エントランスの銘板は「ここで合っている」と確かめさせるための面です。
エレベーターの前で階数を探します。フロア案内に自社名が載っていないと、訪問者は勘で階を押します。
降りた先に扉が並んでいると、最後の数歩で止まります。室名札は、ノックしてよいかを判断させる面です。
訪問者の道のりを、4つの区間に切ります。区間の切れ目が、判断を求められる場所です。 判断のある場所にだけ面を置きます。 途中の廊下や階段の踊り場には、判断がありません。
| 区間 | 訪問者の疑問 | 要る面 |
|---|---|---|
| 道から建物前 | この建物で合っているか | 建物名か社名を出す面 |
| エントランス | どの扉から入るか | 銘板、または入口横の表示 |
| エレベーター前 | 何階へ上がるか | フロア案内 |
| 扉の前 | この部屋でよいか | 室名札 |
自分の事務所で、4つすべてが要るとは限りません。1階の路面に面した事務所なら、 エレベーター前の区間は消えます。逆に、敷地が広く駐車場から歩く距離があるなら、 区間が1つ増えます。門や駐車場から建物までは、屋外の案内サインが受け持つ範囲になります。
数え方は簡単です。最寄り駅か駐車場から自分の席まで歩き、立ち止まった回数を数えます。 初めて来る人はそこで必ず止まります。
面ごとに載せる情報を絞る
1つの面が答えるのは、1つの疑問だけです。
区間ごとに疑問が違うので、答えも違います。 建物前の面が答えるのは「この建物か」。銘板が答えるのは「この入口か」。 フロア案内が答えるのは「何階か」。室名札が答えるのは「この扉か」。 疑問が1つなら、載せる情報も1つで足ります。
| 面 | 載せる情報 | 読む距離と文字の高さ |
|---|---|---|
| 建物前の面 | 社名(または建物名) | 20m前後 → 4〜8cm |
| エントランスの銘板 | 社名と階数 | 1〜2m → 1cm以上 |
| フロア案内 | 社名と部屋番号 | 3〜5m → 1〜2cm |
| 扉の室名札 | 社名か部屋番号 | 1m前後 → 1cm以上 |
文字の高さは距離から出す
20m先から読ませる面:20,000mm ÷ 250 = 80mm、÷ 500 = 40mm → 4〜8cm
1〜2mで読む銘板:2,000mm ÷ 250 = 8mm → 計算値が1cmを切ります
手元で読む面は、計算値ではなく1cm前後を下限に置いてください。
屋内の短い距離では、大きいほう(1/250)を採ります。3〜5mで読むフロア案内なら、 3,000 ÷ 250 で12mm、5,000 ÷ 250 で20mm。1〜2cmが目安になります。 この幅は、書体、地色との明暗差、照明の有無で動きます。
ロゴと社名の関係を決める
ロゴマークは、知っている人にしか効きません。初めて来る訪問者が照合するのは、 招待メールに書かれた社名の文字です。ロゴを大きく、社名を小さくすると、照合できません。 訪問者向けの面では、読める社名を主役にしてください。
ロゴを使うなら、社名と同じ面に並べます。並べる比率は、社名の文字が上の計算値を下回らないことだけを守れば足ります。 面を分けてロゴだけの板を作ると、区間が増えたのと同じことになり、訪問者の視線が散ります。
入居ビルの規約と原状回復を確かめる
作れる案と、出せる案は違います。順番を逆にすると作り直しになります。
| 掲出できる場所と寸法 | 共用部に出せる面は、ビル側が枠を決めていることがあります。枠の寸法を先に聞いてください。 |
|---|---|
| 様式の指定があるか | 書体と地色を建物全体でそろえている物件があります。自社の指定色が使えるとは限りません。 |
| 取り付けの工法 | 壁に穴を開けてよいかで、選べる方法が変わります。開けられないなら接着か置き型になります。 |
| 原状回復の範囲 | 退去時にどこまで戻すかを、契約書の条文で読みます。穴の補修まで含む場合があります。 |
| 承認の窓口と日数 | 管理会社の確認には日数がかかります。製作を発注する前に相談してください。 |
共用部は、借りている専有部分の外です。エントランスの銘板も、エレベーター前のフロア案内も、 置き方を決めるのはビル側になります。既存の枠に差し込む形なら、自由になるのは文字組みだけです。 枠の寸法を先に聞けば、デザインの検討が一度で済みます。
穴を開けて留めた面は、外したあとに補修が要ります。契約書の原状回復の条文に、 どこまで戻すかが書かれています。読んでから工法を選ぶと、退去時の出費が動きます。 借りた物件での看板の扱いは借りた店舗の看板の考え方にまとめてあります。
建物の外へ出す面には、もう一つ確認先があります。屋外広告物の条例です。 一般的に、表示面積や地上からの高さで許可の要否が分かれます。 県の条例が適用される地域と、市が独自の条例を持つ地域があります。 窓の内側に貼った表示でも、外に向けていれば対象になる場合があります。 手続きの流れは屋外広告物の許可の取り方で詳しく扱っています。 ※ 扱いは自治体・建物によって異なります。事前に管轄窓口へご確認ください。
面の数で費用を見る
1面の金額ではなく、いくつ要るかから考えます。
費用が動くところ
| 面の数 | 区間ごとに1面ずつ要ります。区間を減らせない以上、ここが土台になります。 |
|---|---|
| 1面あたりの作り | 素材、切り文字か板か、照明を付けるかで1面の費用が動きます。 |
| 取り付けの工法 | 壁を傷めない方法を選ぶと部材が増えます。高い位置なら足場も要ります。 |
| 書き換えのしやすさ | 差し替え式は初期が上がり、社名変更や増床のたびの費用が下がります。 |
| 退去時の撤去と補修 | 外すときの手間は、作るときに選んだ工法で決まります。 |
掲載社が実際に公開している金額は看板の費用に種類別にまとめています。
月あたりに直し、時間で検算する
初期費用 ÷ 使う年数 ÷ 12 = 月あたりの負担
道案内1件の対応時間 × 月の件数 = 今かかっている時間
区間が4つなら4面です。5年使う前提なら 5 × 12 = 60 なので、 初期費用の60分の1が月あたりの負担になります。 面を1つ減らせば、この負担も4分の1ずつ軽くなります。
釣り合うかどうかは、時間に直すと見えます。 道案内の電話が1日2件、1件3分かかっているとします。2 × 3 = 1日6分。 営業日が月20日なら 6 × 20 = 120分で、月2時間です。 年に直すと 2 × 12 = 24時間。5年で 24 × 5 = 120時間になります。 1日8時間として 120 ÷ 8 = 15日分です。 看板を5年使うあいだに、担当者15日分の時間が戻る計算になります。
この15日を高いと見るか安いと見るかは、事務所によって変わります。 来客が週に1組の事務所なら、区間を全部埋める必要はありません。 逆に採用面接や納品の出入りが多いなら、面を削るほど時間が減っていきます。
訪問者が迷っていないかを測って直す
売上ではなく、迷いの量を数えます。
「着いたが入口が分からない」という電話やメッセージを、月ごとに数えます。取り付けの前後で比べられる、いちばん軽い指標です。
建物の前から受付までに何分かかったかを、来客に尋ねて記録します。10人分たまると、遅い人の共通点が浮かびます。
初めて来た人に、どこで止まったかを聞きます。区間のどこで詰まったかが分かれば、足す面が1つに決まります。
毎日来ない相手ほど、案内の分かりにくさが出ます。荷物の受け取り場所を聞かれる回数を記録します。
来客の数は看板では動きません。動くのは、着いてから受付までの手間です。
見るタイミング
| 取り付けた初日 | 道から歩いて4つの区間を自分でたどります。止まった場所が、面の足りない区間です。 |
|---|---|
| 2週間 | 道案内の連絡が減ったかを見ます。変わらなければ、面の位置か文字の大きさを疑います。 |
| 3か月 | 受付までの所要時間を集計します。分単位の差が出ます。 |
| 半年 | 社名、階数、部屋番号が今の実態と合っているかを見ます。増床や部署の移動で古くなります。 |
迷いが減らないとき、この順で疑う
- 1照明が届いているか
夕方から見えない面は、無いのと同じです。既存の照明の向きを変えるだけで直ることがあります。
- 2面の前に物が置かれていないか
観葉植物、傘立て、台車。日々の運用で隠れます。どければ戻ります。
- 3高さが目線から外れていないか
銘板が低すぎると、荷物を持った人の視界から外れます。付け替えは板の作り直しより軽く済みます。
- 4文字が小さすぎないか
読む距離を測り、距離の1/250〜1/500と比べます。差が大きいときは、文字だけを作り直す方法があります。
- 5区間そのものが抜けていないか
面を大きくしても、無い区間は埋まりません。ここまで来て初めて、1面足すことを考えます。
位置と文字の大きさは、印刷した紙を貼るだけで試せます。数日そのままにして、 来客がどこで止まるかを見てください。 板を作る前に位置を決めておくと、直す工程がまるごと消えます。
よくある失敗5パターン
どれも、発注の前に決めておけば避けられます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| エントランスに社名だけ大きく出した | 階が分からず、来客が受付を探して歩く | 階数を1行足す。銘板の下に小さな札でもよい |
| 1つの面に事業内容まで載せた | 文字が小さくなり、社名まで読まれない | 面を分け、1面に情報を1つだけ残す |
| ビルの承認より先に発注した | 取り付けを断られ、作り直しになる | 枠の寸法と様式を管理会社へ先に確認する |
| 壁に穴を開けて取り付けた | 退去時の補修費が見込みより膨らむ | 契約書の原状回復の条文を読み、工法を選び直す |
| 移転や増床のあと古い階数を残した | 来客が空いた階まで上がって戻る | 古い表示を外す。撤去だけなら軽い作業で済む |
セルフチェックリスト
発注の前に使ってください。5つ以上「いいえ」があれば、見直しの余地があります。
- 道から建物までを、初めて来た人の目線で歩いてみた
- 建物の外から、社名か建物名が見えることを確かめた
- 入口が2つ以上ある建物かどうかを確認した
- エントランスに出す面へ、階数を入れると決めた
- フロア案内に自社名が載るかを管理会社に聞いた
- 扉の前に室名札を出すかどうかを決めた
- それぞれの面を読む距離を、歩いて測った
- 測った距離から、必要な文字の高さを計算した
- 1つの面に載せる情報を1つに絞った
- 掲出できる寸法と、承認にかかる日数を確認した
- 契約書の原状回復の条文を読み、取り付け方法を決めた
- 道案内の連絡が今どのくらい来ているかを数えた
よくある質問
オフィスの看板は、何から決めればいいですか?
文字の大きさは、どう決めればいいですか?
入居しているビルには、何を確認すればいいですか?
建物の外に出す表示に、許可は要りますか?
効果があったかどうかは、どう判断しますか?
予算が限られる場合、どこから作ればいいですか?
まとめ
事務所の看板は、次の順序で決めていきます。
| 1 地点 | 駅か駐車場から自席まで歩き、止まる場所を数える。 |
|---|---|
| 2 中身 | 面ごとに答える疑問を1つに決め、距離から文字を割り出す。 |
| 3 規約 | 共用部の枠と様式、原状回復の範囲を先に押さえる。 |
| 4 費用 | 面の数を土台に置き、使う年数で割って月に直す。 |
| 5 測定 | 道案内の連絡の件数と、止まった場所を集める。 |
面を大きくするより、抜けている区間を埋めるほうが効きます。 まず一度、初めて来る人の道のりを自分で歩いてみてください。止まった数が、要る面の数です。