店内の案内表示の作り方
聞かれる前に答える5ステップ
これから店内の案内表示を整える方へ。 店内の表示が足りているかは、聞かれる質問の数で分かります。 同じことを毎日たずねられるなら、その答えがどこにも貼られていません。 表示は、装飾ではなく、質問への返事です。
客が立ち止まる場所を、歩いて洗い出す手順/ 聞かれる質問を、表示の言葉に置き換える方法/ 歩きながら読める文字数と、貼る高さの決め方/ 差し替える表示と、変えない表示の分け方/ 表示にかけた費用を、月あたりに直す式/ 聞かれた回数を数え、安い順に手を入れる順番
同じ質問が続くなら、答えがどこにも貼られていない
店内の表示は、必要になってから一枚ずつ増えます。 気づくと紙が増え、どれも読まれなくなっているのが、この分野の難しさです。
起きやすいのは、次の四つです。 売場を動かしたのに表示が古いまま残り、案内どおり進んで行き止まる。 一枚に用件を三つ入れ、どれも読まれない。 低い位置に貼り、混んだ時間には人の背中で隠れる。 手書きの紙が増え続け、役目の終わったものが外されない。
どれも、作る前に決めておけば起きません。 止まる場所を探し、言葉に置き換え、高さと大きさを決め、費用を割り、数えて直す。 この五つを順に埋めます。
客が立ち止まる場所を、歩いて洗い出す
表示の数は、売場の広さではなく、迷う場所の数で決まります。
普段は従業員の通路を使っています。客の入る扉から、客の進む向きでたどってください。
迷いは、立ち止まる形で表れます。分かれ道、レジの前、階段の下。印の数が表示の数です。
「どっちへ行くのか」「ここで待つのか」。問いが書ければ、表示の文言は決まります。
両手がふさがると、見る高さが変わります。台車やベビーカーでも同じことが起きます。
迷いは、立ち止まる形で表れます。 止まった場所に印を打てば、必要な表示はそこに集まります。
| 止まる場所 | そこで浮かぶ問い | 表示が答えること |
|---|---|---|
| 入ってすぐ | どこへ進むのか | 売場や受付の方向 |
| 通路の分かれ目 | どちらへ曲がるのか | その先にあるもの |
| レジ・受付の前 | ここで待つのか | 並ぶ位置と順番 |
| 階段・エレベーターの下 | 上に何があるのか | 階数と、その階の中身 |
毎日通っている人には、迷う場所が見えません。 初めて来た人に歩いてもらい、止まった位置を後ろから見るのがいちばん確かです。
建物に入る前の誘導は、別の話になります。 駐車場から入口までの並べ方は駐車場・入口の案内サインにまとめました。
聞かれる質問を、表示の言葉に置き換える
表示の文言は、考えて作るものではなく、集めるものです。
レジの脇に紙を1枚置き、聞かれた質問を1週間書き取ります。 多い順に並べれば、作る表示の順番がそのまま決まります。
「トイレはどこですか」が多いなら、表示は「トイレ」ではなく矢印つきの位置案内にします。
歩きながら読めるのは9〜13文字です。長い説明は、立ち止まる場所へ移します。
売場の案内と注意書きが同じ紙にあると、どちらも読まれません。紙を分けます。
通路の表示は、歩きながら読まれます。 載せられる量は、歩く速さで決まります。
5m手前から見えるなら 5 ÷ 1.1 = 約4.5秒
1秒に読めるのを2〜3文字と置く(目安)
4.5 × 2 = 9 / 4.5 × 3 = 13.5 → 9〜13文字
通路の表示は、13文字を上限に置きます。 それ以上の説明は、立ち止まる場所へ移してください。 レジの前や受付の横なら、読む時間に制限はありません。
文字を減らす方法として、図記号を使う手もあります。 選び方と組み合わせ方はピクトグラムの使い方で扱っています。
売場の案内と、注意書きを同じ紙に載せると、どちらも読まれません。 読む人は、自分の用件に関わる紙だけを見ているからです。 紙を分けて、貼る場所も分けてください。 枚数は増えますが、読まれる率は上がります。
高さと大きさを、目線と距離から決める
読めない表示の多くは、大きさではなく高さの問題です。
混んだ時間には、低い位置の表示が人の背中で隠れます。 遠くから見つけさせる表示は、人の頭より上に置きます。
| 付ける場所 | 読まれ方 | 高さの決め方 |
|---|---|---|
| 通路の上から吊る | 遠くから見つける | 人の頭より上。混雑しても隠れない |
| 壁に貼る | 曲がる位置で確かめる | 立った目線の高さに合わせる |
| 棚や什器に付ける | 手を伸ばす前に読む | 商品より下げない |
| 床に貼る | 並ぶ位置を示す | 足元だけ。文章は載せない |
文字の高さを割り算で出す
読ませたい距離が決まれば、高さは計算で求まります。
10m先(通路の奥から) → 10,000 ÷ 500 = 20mm / ÷ 250 = 40mm → 2〜4cm
5m先(曲がる位置) → 5,000 ÷ 500 = 10mm / ÷ 250 = 20mm → 1〜2cm
2m先(棚の前) → 2,000 ÷ 500 = 4mm / ÷ 250 = 8mm → 0.4〜0.8cm
この幅は、明るい場所で正面から見た値です。 書体、地の色との明暗差、照明の当たり方で変わります。 年齢の高い方が多く来る店では、大きいほうへ寄せてください。 読みやすさの整え方はユニバーサルデザインの看板にまとめてあります。
置く前に確かめること
| 避難の経路と非常口 | 表示や什器で、通路や扉をふさがない。 |
|---|---|
| 法定の掲示との重なり | 掲げる義務のある表示は、隠れない場所に残す。 |
| 貸主・管理者の決まり | 借りた区画では、壁に穴を開けられない場合がある。 |
| 原状回復の範囲 | 両面テープや粘着が、返すときに問題にならないか。 |
| 照明との位置関係 | 照明の真下は反射する。角度を変えて見え方を確かめる。 |
| 車いすやベビーカーの通り幅 | 表示を置いたあとの通路幅を、実際に測る。 |
掲げる義務のある表示が、案内の紙で隠れることがあります。
非常口の前や通路に置いた什器も、同じ問題を起こします。
表示を足したあとに、通路の幅を実際に測ってください。
消防に関わる掲示は店内の消防・避難の掲示で扱っています。
※ 必要な掲示の種類と貼り方は、建物と業態により異なります。開店前に管轄の窓口へお確かめください。
差し替えの頻度で作り方を分け、費用を割る
全部を同じ作りにすると、変えたいときに変えられません。
費用が動くところを見る
| 枚数 | 一枚あたりより、総数が効く。同じ形でそろえると下がる。 |
|---|---|
| 差し替えの頻度 | 毎月変えるものと、数年変えないものは作り方を分ける。 |
| 素材と厚み | 紙、板、金属。触れる場所ほど丈夫なものが要る。 |
| 取り付け方 | 貼るか、吊るか、置くか。壁に穴を開けられるかで変わる。 |
| 図記号を作るか | 共通の図記号を使えば、作る手間は減る。 |
| 多言語にするか | 言語を増やすほど、一枚の情報量が増える。 |
毎月変えるものは、安く早く作れる形にします。 数年変えないものだけ、丈夫な作りにすれば足ります。 掲載社が公開している金額は、看板の費用に種類別にまとめました。
月あたりに直し、人数まで落とす
一式の総額144,000円 ÷ 36か月 = 月4,000円
この144,000円は相場ではありません。 割り算の動きを見るために置いた、仮の数字です。
次に、1人が残す粗利で割ります。
4,000 ÷ 1,200 = 3.33 → 月4人(切り上げ)
30 ÷ 4 = 7.5 → 約7.5日に1人
検算:4 × 1,200 = 4,800円 → 月4,000円を上回る
迷わずに買えた人が、8日に1人増えれば釣り合う計算になります。 2,000円も粗利率0.6も、仮の置き方です。 自分の平均単価と、直近の粗利率に差し替えて計算し直してください。
聞かれる回数を、時間に直す
店内の表示は、答える手間も減らします。
10 × 30日 = 300分 = 5時間/月
20回も30秒も、仮の置き方です。 1週間数えて、自分の店の数字に差し替えてください。 表示を増やす判断は、売上より先に、この時間で説明できます。
聞かれた回数を数え、貼り替えから直す
効いたかどうかは、質問が減ったかで分かります。
レジの脇に紙を1枚置きます。多い質問が、足りない表示です。
同じ場所で複数の人が止まるなら、そこに表示が要ります。
見上げているのに進まないなら、読めていません。高さか文字数を疑います。
1週間ずつ数えれば足ります。効いた表示が、そのまま型になります。
上から順に、手間の軽い方法です。 1番目は、紙とペンだけで始められます。
見る時期を決める
| 1週間 | 聞かれる質問の数を数えます。多い順に並べます。 |
|---|---|
| 1か月 | 表示を入れ替えたあと、同じ質問が減ったか確かめます。 |
| 3か月 | 売場を動かした影響を見ます。表示と実際がずれていないか調べます。 |
| 1年 | 日焼けとはがれを見ます。差し替えの型を見直す時期でもあります。 |
店内の表示は、売場を動かすたびに古くなります。 棚の位置を変える作業に、表示の差し替えを組み込んでください。 別々の作業にすると、直すのを忘れます。
効かないときは、この順で疑う
- 1客と同じ道を、もう一度歩く
費用はかかりません。什器で隠れた表示が、この時点でほとんど見つかります。
- 2表示の前の商品と什器をどける
売場は動きます。表示を動かすより、前を空けるほうが早く済みます。
- 3文字を13文字まで削る
紙を刷り直すだけです。減らすほど、遠くから読めるようになります。
- 4高さを、立った目線に合わせ直す
貼り替えるだけで済みます。低すぎる表示は、人が立つと隠れます。
- 5照明の反射しない角度へ振る
真下からの光は、表面で跳ね返ります。数度傾けると読めます。
- 6分かれ道に、表示を一つ足す
直すより、抜けている場所を埋めるほうが早く効きます。作り直しは、この後です。
上のほうほど、費用をかけずに手を打てます。 1番から3番は、その日のうちに終わります。 表示を作り直すのは、六つを試した後です。
よくある失敗5パターン
どれも、貼り替えるか、載せた用件を減らすことで手当てできます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 売場を動かしたのに表示を直さなかった | 案内どおり進んで行き止まる | 売場を動かす作業に、表示の差し替えを組み込む |
| 一枚に用件を三つ入れた | どれも読まれず、質問が減らない | 紙を分ける。通路の表示は13文字までに削る |
| 低い位置に貼った | 混雑すると人の背中で隠れる | 通路の表示は頭より上へ移す。貼り替えで足りる |
| 照明の真下に付けた | 反射して角度によって読めない | 数度傾けるか、位置を横へずらす |
| 手書きの紙が増え続けた | 表示が多すぎて、どれも見られない | 同じ形でそろえ、役目の終わった紙を外す |
セルフチェックリスト
作りはじめる前に使います。5つ以上「いいえ」があれば、見直す余地があります。
- 入口から、客と同じ道を実際に歩いた
- 足が止まる場所を洗い出し、印を打った
- 印ごとに、そこで浮かぶ問いを書き出した
- よく聞かれる質問を、1週間数えた
- 通路の表示を、13文字までに収めた
- 読ませたい距離から、文字の高さを割り算で出した
- 通路の表示を、人の頭より上に置いた
- 一枚の紙に、用件を二つ入れていない
- 照明の反射を、実際に立って確かめた
- 表示を置いたあとの通路幅を測った
- 避難の経路と法定の掲示をふさいでいない
- 差し替える表示と、変えない表示を分けて作った
よくある質問
店内の案内表示は、何から決めればいいですか?
通路の表示には、何文字まで載せられますか?
表示は、どのくらいの高さに付けますか?
法定の掲示と、案内の表示は一緒にしていいですか?
効いているかは、いつ判断しますか?
予算が限られる場合、どこから手を付けますか?
まとめ
店内の案内表示は、次の順序で決まります。
| 1 止まる場所を探す | 客と同じ道を歩き、足が止まった位置に印を打つ。 |
|---|---|
| 2 言葉に置き換える | 聞かれた質問を集め、通路の表示は13文字までに削る。 |
| 3 高さと大きさを決める | 遠くから読ませる表示は頭より上。距離から文字の高さを出す。 |
| 4 費用を割る | 差し替える表示と変えない表示を分け、月あたりに直す。 |
| 5 数えて直す | 質問の数を前後で比べ、貼り替えで済む順に手を入れる。 |
表示を足すほど、一枚あたりは読まれなくなります。 役目の終わった紙を外すことが、新しい表示を作るのと同じくらい効きます。