宿泊施設の看板ガイド
夜に初めて来る客を迷わせない5手順
これから宿を開く方、看板を作り替える方へ。 客は夜に荷物を持ち、地図を見ながら歩いてきます。 出す看板の枚数と大きさは、その道順から決まります。
到着の側から道順をたどり、迷う場所を書き出す手順/ 道順の4か所に、それぞれ何を出すかの決め方/ 読ませたい距離から、文字の高さを計算する方法/ 客室数と分岐の数から、表示の枚数を数える方法/ 掲げる表示と、確かめる手続きの区分/ 制作費を年あたりに直し、必要な予約の件数を出す計算
看板は、客が歩く順に決まります
宿の看板の相談は、たいてい建物の正面から始まります。 ところが客が困るのは、正面に着くより手前です。 決める順番は、看板の形からではなく、客が歩く道順からです。
道順を見ないまま決めると、こうなります。正面に大きな1枚を掲げたが、 2つ手前の曲がり角で客の足が止まる。昼に色と大きさを決めたが、夜は文字が沈む。 玄関に屋号は出したのに、扉を開けた客が受付を探して立ち止まる。 地図アプリの案内が切れる地点と玄関が離れ、到着前の電話が減らない。
道順を書き出し、要所に出すものを決め、表示と手続きを整理し、 費用を年あたりに直し、到着の様子を測る。 この5つで、何をどこに何枚出すかが決まります。
ホテル、旅館、ゲストハウス、簡易宿所を想定しています。 扱うのは、初めて来る客が玄関にたどり着くまでのサインです。客室の内装や備品の表示は含みません。 手続きの扱いは施設の種類と営業の形によって変わりますので、管轄の窓口へご確認ください。
客が辿る道順を、到着の側から書き出す
出発点は玄関ではなく、その手前にあります。
紙に、起点から玄関までを線で引きます。 その線の上に、曲がる場所と暗い区間を書き込みます。 この線が、そのまま看板の設置図になります。
- 1到着の起点を1つ決める
駅の出口、バス停、駐車場の入口。客が乗り物を降りる場所です。多い経路から書き出します。
- 2地図アプリの案内が終わる地点に立つ
自分の宿を検索し、案内される通りに歩きます。案内が切れた場所から玄関までを歩数で測ります。
- 3曲がり角を数える
進む向きが変わる箇所がいくつあるか。1か所ごとに客は判断を迫られます。
- 4同じ道を夜に歩く
昼に見えた建物の輪郭は、夜には消えます。どこが暗く、どの明かりが目印になるかを見ます。
- 5荷物を持って歩く
手がふさがると、地図を見る回数が減ります。立ち止まった場所と理由を書き足します。
- 6建物の前を通り過ぎてみる
玄関の手前で気づけるか、行き過ぎて戻るか。歩く向きを変え、両方から近づきます。
歩くのは1回では足りません。昼と夜、雨の日、荷物のある日で目に入るものが変わります。 道を知っている人の感想は当てになりません。来たことのない人に頼んでください。
立ち止まった場所に印を付けます。 印の数が、足す誘導の枚数の下限です。
道順の要所に出す看板を決める
置くのは4か所。それぞれ、載せてよい情報の量が違います。
通りの向こう、または駐車場の入口から屋号が読める1枚です。載せるのは屋号と、宿だと分かる一語まで。説明を足すと読めません。
進む向きが変わる場所に置きます。要るのは矢印と屋号だけです。板は小さくて構いません。方向が決まれば客は歩き続けます。
入口がここだと分かる1枚です。屋号のほか、受付の時間や連絡先を添えます。夜に扉が閉まる宿では、この1枚が最後の頼りです。
扉を開けた正面に受付の位置を示します。荷物を置く場所や階段の向きも同じ面にまとめます。無ければ玄関で立ち止まる人が出ます。
1枚に2つの役割を持たせると、どちらも果たせなくなります。
読ませたい距離から、文字の高さを出す
必要な文字の高さは、視認距離の1/250から1/500です。 30m先から読ませたいなら6〜12cm、50m先なら10〜20cmになります。 3,000cmを500で割ると6、250で割ると12。5,000cmなら10と20です。
| 読ませたい距離 | 文字の高さ | 使う場所 |
|---|---|---|
| 50m | 10〜20cm | 通りの向こうから見つける看板 |
| 30m | 6〜12cm | 建物の正面に出す屋号 |
| 15m | 3〜6cm | 曲がり角の誘導 |
| 10m | 2〜4cm | 玄関まわりの表示 |
| 5m | 1〜2cm | 館内の案内、客室の番号 |
幅があるのは、条件で変わるためです。書体の太さ、文字と地色の明暗差、照明の有無。 細い書体や、明暗差の小さい配色では、大きいほうの値に寄せます。
曲がり角は、手前で読ませる
歩く速さは、およそ秒速1.2〜1.4mです。時速に直すと4.3〜5.0kmです。 4.3を3.6で割ると1.19、5.0を3.6で割ると1.38になります。 曲がり角の10m手前で看板に気づけば、曲がるまでに7〜8秒あります。 10を1.4で割ると7.1秒、1.2で割ると8.3秒です。
荷物を持ち、地図を見ながら歩く人には、この程度の余裕が要ります。 10m先から読ませるなら、文字は2〜4cmです。 曲がり角の看板が小さくてよいのは、近くで読ませるからです。
効いてくるのは、看板そのものの明るさと、周りにある光の量です。 明かりが多い場所では、看板の光が埋もれます。暗い道なら、小さな照明でも目に入ります。 数値では決められません。夜に現地へ立ち、どこから読めるかを歩いて測ってください。
枚数を数える
必要な数は、部屋と分岐の数から出せます。
| 客室の戸口 | 客室数と同じ枚数。番号は廊下の端から読める大きさに。 |
|---|---|
| 廊下の分岐 | 分岐の数 × 進める方向の数。三叉路が3か所なら6枚です。 |
| 共用の扉 | 浴室、洗面、洗濯、飲料の置き場。用途ごとに1枚ずつ。 |
| 玄関まわり | 屋号、受付の位置、営業に関する表示。 |
| 屋外の誘導 | 曲がり角の数が下限。暗い区間の手前にも1枚足します。 |
客室が12室、廊下の分岐が3か所、各分岐で進める方向が2つ、共用の扉が4か所とします。 12に、3×2の6を足し、さらに4を足して22枚です。 ここに玄関まわりと屋外の誘導が加わります。
車で来る客が多い宿では、駐車場の入口と区画の表示も同じ道順の上で数えます。 作り方は敷地内の案内サインにあります。
掲げる表示と、確かめる手続きを整理する
出したい看板と、掲げることになっている表示は別々に数えます。
宿泊を営むには行政の手続きが要ります。 そのうえで、営業に関する表示を掲げることになっている場合があります。 扱いは施設の種類と営業の形で変わりますので、事前に管轄の窓口へご確認ください。
| 営業に関する表示 | 営業に関する表示を掲げることになっている場合があります。 |
|---|---|
| 屋外に出す看板 | 屋外広告物の扱いがあります。届出や許可が要る場合があります。 |
| 景観や高さの制限 | 区域によって、大きさ、色、高さに制限が置かれることがあります。 |
| 建物側の承諾 | 借りているなら、壁や敷地に付ける前に貸主の承諾が要ります。 |
| 館内の避難に関する表示 | 別の決まりがあります。看板とは分けて考えてください。 |
建物の外に出す看板には、届出や許可が要る場合があります。 県の条例が適用される地域と、市が独自の条例を持つ地域があり、窓口も書式も変わります。 位置と大きさが決まった時点で問い合わせます。
建物を借りているなら、行政の手続きより先に建物側の承諾です。 承諾の取れない位置で図面を進めると、作り直しになります。
消防や避難に関する館内の表示には、看板とは別の決まりがあります。 位置や大きさが定められているものがあり、案内サインの都合では動かせません。 先にこちらを確定してから、館内の案内を配置してください。 扱いは建物の規模や用途で変わりますので、管轄の窓口へご確認ください。
費用を年あたりに直し、取り戻すラインを計算する
一式の見積額のままでは、判断できません。年に割ってから見ます。
年あたりの費用 ÷ (1泊あたりの粗利 × 1予約あたりの泊数) = 年に必要な予約数
看板は一度作ると何年も使います。見積額のままだと重く見えます。 比べる相手は、1年ぶんの粗利です。
埋める数字は5つ
| 制作費 | 看板一式の見積額。屋外の分と館内の分は分けて出してもらいます。 |
|---|---|
| 使う年数 | 何年もたせるか。素材と取り付け場所で変わります。 |
| 年の維持費 | 電気代、清掃、部材の交換。照明が入るなら電気代が乗ります。 |
| 1泊あたりの粗利 | 宿泊料から、泊まるたびにかかる清掃や消耗品の分を引いた額。 |
| 1予約あたりの泊数 | 1件の予約が平均で何泊か。予約の記録から出ます。 |
体感できる単位まで落とす
制作費を30万円、使う年数を6年、年の維持費を1万2千円と置きます。 300,000を6で割ると50,000円。これに12,000円を足して、年あたり62,000円です。
1泊あたりの粗利を6,000円、1予約あたりの泊数を1.5泊とします。 6,000に1.5を掛けて、1予約あたり9,000円。 62,000を9,000で割ると6.888…で、年に約6.9件です。 365を6.9で割ると52.9。およそ53日に1件、予約が増えればつり合います。
月に直せば、ひと月に1件に届きません。 置いた金額は計算の置き方であって、相場ではありません。 自分の宿の数字を入れて、もう一度計算してください。
屋外の看板は風雨と日射しを受け、館内の表示は受けません。 使う年数が違うものを1つにまとめると、年あたりがずれます。 掲載社が公開している金額は看板の費用に種類別にまとめてあります。
到着してからの様子を測り、迷う場所を減らす
測る道具は、すでに宿の中にあります。
鍵を渡すときに「ここまで迷いませんでしたか」と聞きます。迷った人は場所まで話してくれます。日付と場所を書き足せば記録になります。
電話やメッセージで道を尋ねられた回数を月ごとに数えます。同じ交差点の名が繰り返し出るなら、そこに誘導が足りていません。
予約サイトや口コミに「分かりにくい」が出ていないかを見ます。書かれた月と、その人の到着手段を合わせて読みます。
防犯カメラがあれば、玄関の前を行き来した人を数えます。通り過ぎて戻る動きは、表示が見えていない印です。
地図アプリで自分の宿を検索し、案内が切れる地点まで歩きます。玄関までを歩数で測り、離れていれば登録情報を直します。
1つ目を毎日続けるだけで、直す場所は見えてきます。
判断のタイミング
| 最初の2週間 | 迷った人がいるかを毎日聞きます。曲がり角の見落としはここで出ます。 |
|---|---|
| 1か月 | 到着前の問い合わせを数えます。同じ場所が繰り返し出るなら1枚足します。 |
| 繁忙期 | 来る人が増え、着く時間も遅くなります。夜の見え方はこの時期に。 |
| 1年 | 色あせ、汚れ、周りの店の入れ替わり。周りが変わることがあります。 |
記録は日付つきで残し、月ごとに並べてください。 数日の出来事で作り替えると、雨だった日に振り回されます。
迷われるときは、この順で疑う
- 1地図アプリの登録位置を直す
座標がずれていると、看板を増やしても客は別の場所へ着きます。修正に費用はかかりません。
- 2曲がり角の誘導を足す
迷った人が口にした交差点に1枚足します。矢印と屋号だけで歩く向きは決まります。
- 3夜の明るさを確かめる
同じ看板でも、周りの光の量で読める距離が変わります。照明の向きを変えるだけで届くことがあります。
- 4玄関の表示の大きさを見直す
通り過ぎる人が多いなら、表示が小さいか取り付けが高すぎます。位置を下げるだけで解けることがあります。
- 5遠くから見つける看板を見直す
ここで初めて、大きい1枚の話になります。文字は増やさず、削って大きくします。
- 6作り直す
上の5つを試したうえで決めます。作り直しは、いちばん最後に置いてください。
並びは、費用のかからないものからです。 1番は無料で、2番と3番も小さな出費で終わります。 大きな金額が動くのは5番から先です。
よくある行き違い5パターン
どれも、作り直さずに手を打てます。
| 行き違い | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 建物の正面に1枚だけ出した | 曲がり角で客の足が止まる | 迷う交差点に矢印だけの板を足す |
| 昼に現地を見て決めた | 夜に読めない看板ができる | 夜に同じ場所へ立ち、照明の向きを変える |
| 玄関に屋号だけ出した | 扉の内側で受付を探して止まる | 入って正面に、受付の位置を示す1枚 |
| 地図の登録位置がずれている | 到着前の問い合わせが減らない | 登録情報を直す。費用はかからない |
| 文字を増やして情報を詰めた | 遠くから屋号が読めなくなる | 屋号と方向に削り、残りは玄関へ移す |
セルフチェックリスト
業者に相談する前に使ってください。5つ以上「いいえ」があれば、決め直す余地があります。
- 駅の出口や駐車場の入口から、玄関まで自分で歩いた
- 同じ道を、夜にもう一度歩いた
- 荷物を持って歩き、立ち止まった場所を書き出した
- 地図アプリの案内が切れる地点と、玄関の距離を測った
- 曲がり角を数え、そのすべてに誘導を出した
- 読ませたい距離を決めてから、文字の高さを計算した
- 曲がり角の手前から、その看板が見えることを確かめた
- 玄関の表示が、通りを歩く人の目の高さから読める
- 客室数と分岐の数から、館内の表示の枚数を数えた
- 営業に関する表示について、管轄の窓口に尋ねた
- 屋外に出す看板の届出が要るかを、設置前に調べた
- 制作費を年あたりに直し、必要な予約の件数まで計算した
よくある質問
宿の看板は、何から決めればいいですか?
文字の大きさは、どう決めますか?
看板を出すのに、手続きは要りますか?
効果は、いつ判断すればいいですか?
すでに看板があるとき、何から手を付けますか?
予算が限られるときの順番は?
まとめ
宿のサインを決めるときは、次の順序で進めます。
| 1 書き出す | 到着の側から道順をたどり、立ち止まる場所に印を付ける。 |
|---|---|
| 2 決める | 4か所に出すものを選び、距離から文字の高さを求める。 |
| 3 整理する | 掲げる表示と、確かめる手続きを分ける。 |
| 4 計算する | 制作費を年に割り、必要な予約の件数まで落とす。 |
| 5 測る | 到着の様子を数え、安い原因から直す。 |
この作業は、夜に一度歩いた時点で半分が終わります。 起点から玄関まで、荷物を持って歩きます。 印を付けた場所の数から、必要な枚数と大きさは自分で出せます。