多言語表記の看板の作り方
載せる言語を絞る5ステップ
外国語の案内を足そうとしている店舗・施設の方へ。「どの面を訳すのか」「何語まで載せるのか」 「文字はどこまで小さくしていいのか」。 この3つを順番に決めていきます。
訳す面と訳さない面を分ける基準/ 載せる言語の数を、店に残る記録から決める手順/ 言語を増やすと文字が何分の1になるかの早見表/ 訳文が横に伸びる分を、どう見込むか/ 面の数と言語数で費用を出す計算式/ 出したあとに数える指標と、直す順序
これは、翻訳ではなく面を選ぶ作業です
外国語の案内は、訳し始める前に勝負がついています。 決めるのは文言ではなく、どの面を訳すかです。 面の大きさは、言語を足しても変わりません。
よくあるつまずきは4つです。全部の面を訳して、どの言語も文字が小さくなる。 言語を1つずつ足して、同じ面を何度も作り直す。 訳文が横に伸びて、行が折り返す。 誰も来ない言語が、面の4分の1を占め続ける。
訳す面を分ける、言語を絞る、文字の量と大きさを決める、費用を見る、測って直す。 この順に進めれば、どの面に何語を載せるかを自分の言葉で説明できます。
訳す面と、訳さない面を分ける
訳すのは「知らないと困ること」だけです。
どこから入るのか、営業しているのか。ここが読めないと、客は扉の前で引き返します。「開いている/閉まっている」「押す/引く」の3点が最小の単位です。
現金だけなのか、カードが使えるのか。先に払うのか、後で払うのか。会計で止まる原因は、この面に集まっています。
靴を脱ぐ、写真を撮らない、飲食物を持ち込まない。知らずに破られると、注意する側もされる側も気まずくなります。
探して店内を歩き回られると、客の時間も店の手も止まります。矢印と図記号だけで足りることが多い面です。
この4つに共通するのは、知らないまま進むと客が止まる点です。 逆に、知らなくても困らない情報は日本語のまま残して構いません。 店の思いを伝える言葉は、訳すと意味が薄くなることのほうが多くあります。
| 面の中身 | 扱い | そう決める理由 |
|---|---|---|
| 入口・営業の状態 | 訳す | 入れるかどうかが分からない |
| 支払いの条件 | 訳す | 会計の場で止まる |
| 禁止していること | 訳す | 破られてからでは戻せない |
| トイレ・順路 | 図記号にする | 文字にしなくても伝わる |
| キャッチコピー | 訳さない | 直訳すると意味が壊れる |
| 季節の告知 | 訳さない | 貼り替えが追いつかない |
| 商品の細かい説明 | 別の紙へ逃がす | 看板の面には収まらない |
文字を入れる場所は増えません。載せる言語が増えた分、1つあたりの取り分が減るだけです。 日本語だけなら高さ20cmで組めた文字は、4言語に分けると5cmになります。 訳す面を選ぶことは、残した文字を大きく保つことでもあります。
入口の位置や順路そのものをどう伝えるかは、 駐車場・入口の案内サインの作り方で扱っています。
載せる言語を絞る
中身より先に、数を決めます。
言語を1つ足すたびに、1言語あたりの取り分は減ります。 2言語なら2分の1、3言語なら3分の1、4言語なら4分の1です。 言語の数は、そのまま文字の小ささになって返ってきます。
| 並べる言語 | 1言語あたりの文字 | 読める距離の目安 |
|---|---|---|
| 1言語だけ | 20cm | 50〜100m |
| 2言語 | 10cm | 25〜50m |
| 3言語 | 約6.6cm | 16〜33m |
| 4言語 | 5cm | 12〜25m |
※ 面の高さを行数で等分し、視認距離の目安(文字の高さの250〜500倍)で換算した場合です。 書体、余白の取り方、照明の有無で変わります。
では、どの言語を残すか。ここは想像で決めないでください。 店にはすでに記録が残っています。
どの言語で問い合わせが来たかは、受信箱に残っています。想像ではなく、この記録から数えます。
「何語で話しかけられたか」を1か月ぶんメモしてもらいます。10件も集まれば偏りが見えます。
2つで足りるのか、4つ要るのか。数えた結果の上位から取ると、面を無駄にしません。
トイレ、非常口、禁煙。図記号に置き換えた項目は、言語の数だけ増えません。
案内用図記号(ピクトグラム=絵で意味を示す記号)に置き換えた項目は、言語の数だけ増えません。 1つの記号が、載せたすべての言語を兼ねます。 トイレ、非常口、車いす対応、禁煙。この種類は文字を減らせる代表です。 案内用図記号には日本産業規格(JIS Z 8210)で定められたものがあるとされています。 どの記号を使えるかは、規格の最新の内容をご確認ください。
文字の量と大きさを決める
距離から高さを出し、行数で割ります。
まず、その面を何m先から読ませるか
必要な文字の高さは、読ませたい距離の250分の1から500分の1が目安です。 50m先から読ませたいなら10〜20cm。5m先なら1〜2cmで足ります。
| 5m先から読ませる | 1〜2cm |
|---|---|
| 10m先から読ませる | 2〜4cm |
| 20m先から読ませる | 4〜8cm |
| 30m先から読ませる | 6〜12cm |
| 50m先から読ませる | 10〜20cm |
※ 背景とのコントラスト、書体の太さ、夜間の照明で必要な高さは変わります。
訳した文は、横に伸びる
同じ意味でも、言語によって語の長さは変わります。 日本語の短い語を他の言語に置き換えると、横幅が広がることがよくあります。 幅は1.2〜1.5倍を見込んで組んでおくと、行の折り返しを避けやすくなります。 伸び方は書体と語によって変わるので、実際の文字を並べて確かめてください。
折り返しが1回起きると、その言語の行数は2倍です。 4言語のうち2つが折り返せば、面に必要な行は6行になります。 行が増えれば1行の高さは削られ、届く距離が縮みます。
面ごとに、言語の数を変える
すべての面を同じ構成にする必要はありません。 遠くから読ませる面ほど言語を減らし、近くで読む面へ言語を寄せます。
道から店を探させる面は、20〜50m先で働きます。ここは1言語と図記号にとどめてください。 入口の手前の面は2〜5m先、会計まわりの面は1m以内で読まれます。 この2つなら、文字を小さくしても2〜4言語が収まります。
遠い面に4言語を載せると、文字は4分の1になり、届く距離も4分の1近くまで落ちます。 そこは店名と図記号に任せ、詳しい案内を入口の手前へ移すほうが読まれます。
色と書体の詰め方は看板デザインの決め方にまとめています。
条例と図記号の扱いを確かめる
屋外広告物の条例は、書いてある言語を見ていません。
外国語を足しても、面の大きさと場所が同じなら扱いは変わらないのが一般的です。 条例が定めているのは、面積、高さ、設置できる区域だからです。 気をつけるのは、行が入りきらずに面を大きくしたくなったときです。
面積と高さの決まりは、載せた言語では動きません。設置できる区域も同じです。 動くのは、面を増やしたときと、面を大きくしたときです。 公共性の高い施設の案内では、決まった図記号を求められる場合もあります。
県の条例が適用される地域と、市が独自の条例を持つ地域があります。
許可が要る面積の線引きも同じではありません。
公共性の高い施設の案内では、決まった図記号や表示の方法を求められる場合があります。
面を作り直す前に、管轄の窓口へ問い合わせてください。
※ 扱いは自治体や場所によって異なります。事前のご確認をおすすめします。
許可そのものの流れは屋外広告物の許可ガイドで詳しく扱っています。
面の数と改訂で費用を見る
翻訳は1回、面の作り直しは言語を足すたびに起きます。
費用が動くところ
| 訳す面の数 | 訳さない面を決めるほど、この数は減ります。 |
|---|---|
| 載せる言語の数 | 翻訳も面の作り直しも、この数で掛かります。 |
| 面を作り直す回数 | 言語を後から足すと、そのたびに発生します。 |
| 訳す語の量 | 翻訳の費用は、語数で決まる部分があります。 |
| 面の大きさ | 行が増えて入らなければ、面を大きくする判断が出ます。 |
掲載社が公開している実際の金額は看板の費用に種類別で載せています。
月あたりに直して、何人来れば釣り合うかを見る
訳す語の量 × 言語の数 = 翻訳の費用(1回)
(面の費用 + 翻訳の費用)÷ 使う月数 = 月あたりのコスト
月あたりのコスト ÷ (客単価 × 粗利率) = 月に必要な客数
例を1つ置きます。訳す面を4面に絞り、1面あたりの作り直しを仮に6,000円とします。 4 × 6,000 = 24,000円。翻訳を仮に12,000円とすると、合計36,000円です。 3年つまり36か月使うなら、36,000 ÷ 36 = 月1,000円。 客単価3,000円で粗利率50%の店なら、1,000 ÷ (3,000 × 0.5) = 0.67 になります。 ひと月に1人、外国語の客が来て買えば釣り合う計算です。
※ 6,000円と12,000円は、式の動きを見せるための仮の数字です。 実際の金額は面の大きさ、素材、語の量で変わります。
2つの言語を同時に決めれば、4面の作り直しは1回で終わります。 先に1言語、翌年にもう1言語という進め方だと、同じ4面を2度作り直します。 先ほどの例なら 24,000 × 2 = 48,000円です。 翻訳の費用は語数に応じて増えるだけですが、面の費用は回数ぶん重なります。
伝わったかを測って直す
読めたかどうかは、聞けば分かります。
会計のときに「この案内は読めましたか」と聞きます。読めたかと、意味が分かったかは別なので、分けて聞いてください。10人で傾向はつかめます。
案内を出す前と後で、「トイレはどこか」「カードは使えるか」を聞かれた回数を記録します。減っていれば、その面は働いています。
言葉のやり取りが要らなくなったかを見ます。面を指差すだけで通じたなら、その表示は成立しています。
入口の手前で立ち止まり、視線が面に向く時間を見ます。誰も見上げないなら、原因は文言ではなく位置か大きさです。
売上より先に動くのは、質問の数です。減った質問の数が、いちばん早い手ごたえになります。
見るタイミング
| 出した初日 | 入口の手前に立ち、外国語の行が読めるかを自分の目で見ます。 |
|---|---|
| 2週間 | 同じ質問を受けた回数が、出す前より減ったかを比べます。 |
| 3か月 | 実際に来た客の言語と、面に載せた言語が合っているかを見直します。 |
| 1年 | 訳す面を足すか、減らすかを決めます。 |
読まれていないとき、この順で疑う
- 1位置が高すぎないか
外国語の行は日本語の下に置かれます。目の高さから外れると読まれません。貼り直しか、高さの調整だけで直ります。
- 2面の手前に物が出ていないか
什器やのぼりが視線をさえぎっていることがあります。動かすだけで済みます。
- 3夕方に明るさが足りているか
昼は読めても、暗くなると読めない面があります。既存の照明の向きを変えて直る場合があります。
- 4語が難しくないか
訳が硬いと読み飛ばされます。短い語への差し替えなら、その行だけの貼り替えで済みます。
- 5載せた言語が合っているか
実際に来る客と違う言語が面を占めていることがあります。記録を見て入れ替えます。
- 6文字が小さすぎないか
ここまで直しても読まれないなら、行数を減らすか、面を作り直します。
直すときも、面に載せる量は増やさないでください。 商品の中身、細かい規則、地図。これらは紙や画面へ逃がすほうが、更新も訳の差し替えも軽く済みます。 看板が引き受けるのは、立ち止まった数秒で必要になることだけです。
よくある失敗5パターン
どれも、面を決める段階で避けられます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| すべての面を訳した | どの言語も文字が小さく、誰にも読まれない | 訳す面を入口・支払い・禁止・トイレへ戻す |
| 言語を1つずつ足した | 同じ面を何度も作り直すことになる | 載せる言語を先に決め、1回でまとめる |
| 機械の訳をそのまま出した | 意味が通らず、結局は口で説明する | 読める人に見てもらい、語を短くする |
| 遠くの看板に4言語を載せた | 文字が4分の1になり、道から読めない | 遠い面は1言語に戻し、図記号を足す |
| 訳した面を貼りっぱなしにした | 中身が古くなり、日本語の案内と食い違う | 訳す面を貼り替えられる作りにしておく |
セルフチェックリスト
発注の前に使ってください。5つ以上「いいえ」があれば、見直しの余地があります。
- 訳す面と訳さない面を、紙の上で仕分けした
- 入口・支払い・禁止事項・トイレの4つを訳す側へ入れた
- キャッチコピーを訳す対象から外した
- 実際に来た客の記録を見て、載せる言語を選んだ
- 載せる言語の数を決めてから、面の設計に入った
- 図記号に置き換えられる項目を、文字から外した
- 面ごとに、何m先から読ませるかを決めた
- 言語の行数で面の高さを割り、1行の文字の高さを出した
- 訳した文が横に伸びる分の余白を見込んだ
- 面を大きくする場合に許可が要るかを、窓口へ確認する予定を立てた
- 訳す面の数と言語数を掛けて、費用を計算した
- 出したあとに何を数えるかを決めてある
よくある質問
多言語の看板は、何から決めればいいですか?
何言語まで載せられますか?
外国語を足すと、許可の手続きは変わりますか?
効果があったかは、いつ判断しますか?
すでに多言語の案内を出しています。直せますか?
予算が限られています。どこから手を付けますか?
まとめ
外国語の案内を足すときは、次の順序で決めていきます。
| 1 面 | 訳すのは入口・支払い・禁止事項・トイレに絞る。 |
|---|---|
| 2 言語 | 来た客の記録から数を決め、記号で済む項目を外す。 |
| 3 文字 | 距離から高さを出し、言語の行数で割る。 |
| 4 費用 | 面の数と言語数で見て、月あたりに直す。 |
| 5 測定 | 同じ質問が減ったかを数え、安い順に直す。 |
訳す文を増やすより、訳さない面を決めるほうが伝わります。 まず店の面を書き出し、知らないと困るものに印を付けてください。 そこが、業者に渡す最初の資料になります。