看板と近隣への配慮
掲出前に確かめる5ステップ
これから看板を出す方へ。図面の上では、看板は自分の敷地に立ちます。 ところが光も音も、境界の内側では止まりません。 隣や向かいとの関係を保ったまま掲げるための手順をまとめました。
看板の影響が届く先が6種類に分かれること/ 掲げる前に立って見ておく5か所/ 光の届き方と、視界をふさぐ角度の出し方/ 読ませたい距離から必要な文字の高さを出す方法/ 工事の前に近隣へ伝える5項目/ 掲出後に直す工事を、粗利の件数に置き換える式/ 苦情が出たとき、費用の軽い手だてから試す順序
もめごとは、掲げる前に減らせます
看板の打ち合わせで後回しになりやすいのが、隣や向かいとの間の話です。 設計の段階では、図面の中に人は出てきません。 けれど面が立つ先は、たいてい誰かの窓の向かいです。
つまずきは、だいたい4つの形で現れます。夜に光が隣の居室へ入る。 先に出ている表示が隠れる。工事の車が道をふさぐ。 袖看板(道に対して直角へ突き出す形)が、境界の外へ出てしまう。
洗い出し、数で確かめ、日を知らせ、費用を出し、受け方を決める。 掲出の前にこの5つを済ませておくと、あとから直す工事がほとんど要らなくなります。
屋外広告物の許可は、地域ごとの条例にもとづいて決まります。
県の条例が適用される地域と、市が独自の条例を持つ地域があり、求められる書類もそろっていません。
近隣への説明を書面で求める運用があるかどうかも、そこで分かれます。
自分の敷地に立てるから自由、とはならない点だけ先に押さえてください。
※ 制度は改正されることがあります。申請の流れは屋外広告物の許可ガイドにまとめました。掲出の前に管轄窓口へご確認ください。
影響が及ぶ範囲を洗い出す
どこまで届くかを先に並べると、後から出る話がほぼ消えます。
面から出た光は、まっすぐ前だけへ進みません。夜に隣の居室へ回り込むと、休む時間に直に当たります。窓の位置と高さを先に押さえます。
道をはさんだ相手には、面の正面がまっすぐ向きます。目の前に窓や店先があるなら、角度を数度ふるだけで当たり方が変わります。
隣がすでに掲げている看板やのれんを隠すと、商いの妨げになります。高さと出幅を、隣の面と並べて見ておきます。
角地では、曲がってくる車の視界に入ります。柱や台が目の高さをふさぐと、歩いている子どもが隠れます。
設置には人と車と機械が来ます。止める場所、作業の時間帯、穴をあける音。その日いちばんの摩擦はここで起きます。
袖看板(道に対して直角へ突き出す形)や旗は、境界より外へ出ることがあります。空中でも、そこは他人の土地の上です。
6つのうち、日が経ってから出てくるのは1番目です。 工事の音は終われば消えますが、光は毎晩そこにあります。 夜に一度も外へ出ないまま掲げると、気づくのは相手のほうが先になります。
洗い出しは、机の上では終わりません。実際に立つ位置を5か所決めて、そこから面を見ます。 図面で見ているかぎり、看板はいつも自分の側から見た形をしています。
| 隣の建物の窓の前 | 居室の窓と同じ高さから、面が視界のどこに入るかを見ます。 |
|---|---|
| 向かいの歩道 | 道をはさんだ位置に立ち、面の正面が誰を向くかを確かめます。 |
| 角を曲がってくる道 | 車と自転車の目線で、見通しがふさがっていないかを見ます。 |
| 境界の真下 | 出幅が敷地の外へ出ていないかを、真下から見上げて測ります。 |
| 夜の同じ場所 | 昼に何もなくても、光が入ると見え方が変わります。 |
5か所目を飛ばさないでください。昼だけ見て決めた面が、夜に別の顔になります。 暗くなってから同じ場所に立ち直すだけで、直す工事を1回減らせます。
光と視界を数字で確かめる
まぶしい、じゃまだ。感じ方の話を、測れる形に置き換えます。
| 見るもの | 目安 | 言い換えると |
|---|---|---|
| 文字の高さ | 視認距離の1/250〜1/500 | 50m先なら10〜20cm |
| 光の届き方 | おおよそ距離の二乗に反比例 | 2倍離すと4分の1 |
| ふさぐ角度 | 幅1mを2m先から見て約28度 | 4m先なら約14度 |
| 点灯の長さ | 1日3時間縮めると年1,095時間 | 消灯の時刻で決まる |
2行目が、話をいちばん短くします。明るさは、おおよそ距離の二乗に反比例します。 隣の窓から2mの位置を4mへ動かせば、届く光は4分の1です。 1m離すだけで収まる話が、面を作り替える話にすり替わることがあります。
3行目は、視界の話を角度に置き換えたものです。幅1mの面を2m先から見ると、視野のうち約28度をふさぎます。 同じ面でも4m先なら約14度。距離を2倍にすると、ふさぐ角はおよそ半分になります。 窓の正面を外すか、離すか。取れる手は、この2つに絞られます。
文字の高さは、逆に足りないと困ります。必要な高さは、読ませたい距離のおよそ250分の1から500分の1です。 50m先から読ませたいなら、50,000mm ÷ 500 で100mmです。同じ距離を250で割ると200mm。つまり10cmから20cmになります。 書体、背景との明暗差、照明の有無で変わるため、迷うなら大きいほうを選んでください。
夜の光をめぐる話は、時刻を決めるだけで大半が収まります。
閉店から1時間で切るのか、日付が変わるまで点けるのか。先に決めておけば、あとで頼まれて渋々止める形になりません。
点灯を1日3時間縮めると、年で1,095時間ぶんの点灯が減ります。
※ 明るさそのものの決め方は電飾看板・LED看板の選び方、点灯にかかる電気代は看板の電気代で扱っています。
工事の日を知らせる
当日に音と車が来ることを、当日に知らせない。それだけです。
| 日にちと時間帯 | 何日の何時から何時までか。半日で終わるかどうかも添えます。 |
|---|---|
| 来る車の種類と台数 | 高い位置なら作業車が来ます。道幅と高さを先に伝えます。 |
| 止める場所 | どこに何台置くか。通り抜けにくくなる時間の長さも書きます。 |
| 音が出る作業 | 穴をあける工程は音が出ます。出る時間帯を絞って伝えます。 |
| 終わったあとの連絡先 | 後日気づいた点を、どこへ言えばよいかを残しておきます。 |
知らせる時期に、法令で決まった基準はありません。 当ガイドでは、車を止める日と音の出る日は1週間ほど前を目安に置いています。 口で伝えたあと、日にちを書いた紙を1枚渡すと、聞き違いがなくなります。
伝える先は、隣と向かいだけではありません。作業車が通る道沿いと、 その日に車を出し入れする相手も入ります。止める場所が重なると、朝いちばんでもめます。
屋上や壁の上のほうへ取り付ける場合、作業車や足場が要ります。
止める時間が長くなり、道をふさぐ幅も広がります。
作業の日数と、車を置く場所は、見積もりの段階で聞いておいてください。
※ 高い場所での作業に必要な段取りは看板の高所作業にまとめています。
直す費用を計算する
掲げ直す工事は、売上ではなく粗利から出ていきます。
直す工事の費用 ÷ 1件あたりの粗利 = 取り返すのに要る件数
客単価を3,000円、粗利率を6割としましょう。1件あたりの粗利は1,800円です。 苦情を受けて掲げ直し、180,000円かかったとします。
180,000 ÷ 1,800 で、100件。1日に3件の来店で、34日ぶんの粗利が消える計算になります。 ひと月まるごと、直す作業のために働いたことになります。
3,000円、6割、180,000円は、式の動きを見るための仮の置き方です。 自分の数字を入れて出し直してください。 夜に一度立って見るだけで、この計算そのものが要らなくなります。
直す費用を左右するところ
| 足場や車両が要るか | 高い位置にあるほど、直すだけでも段取りが増えます。 |
|---|---|
| 面を作り替えるか | 向きを変えるだけか、作り直すか。差がいちばん大きい部分です。 |
| 電気に触るか | 消灯の時刻を変えるだけなら軽く済みます。配線を触ると変わります。 |
| 道路を使うか | 車両を止めるなら、手続きと待ち時間が加わります。 |
| 店を閉めるか | 工事の間に休む日ができるなら、その日の粗利も費用に入ります。 |
1行目と5行目が、見落とされがちです。 直す作業そのものが軽くても、段取りと休みが乗ると、最初に作った額に近づきます。 掲載社が公式サイトで公開している金額は看板の費用に種類別にまとめています。
苦情が出たときの順序を決めておく
出てから考えると、いちばん高い手だてを選びがちです。
誰が話を聞くかを決めておきます。答える人によって内容が変わると、そこから話がこじれます。
消す、時間を変える、動かす。どこまでを即答してよいかを、掲出の前に線引きします。
日付、時刻、天気、内容。この4項目だけの紙を1枚用意すれば足ります。
苦情の多くは夜に出ます。同じ時刻に自分の目で見ないと、話がかみ合いません。
消す、縮める、向きを変える、覆いを足す、作り替える。順番だけ先に決めておきます。
決めておくのは中身ではなく、受け方の形です。何を言われるかは、あらかじめ分かりません。
言われたら、この順で動く
- 1最後まで聞き取る
途中で説明を始めると、話が長くなります。何が、いつ、どこで気になるのか。この3つを書き取ってから答えてください。
- 2同じ時刻に、同じ場所へ立つ
相手が立った位置から見ないと、起きていることが分かりません。歩いて行くだけなので、費用はかかりません。
- 3消す、点灯を縮める
いちばん軽い手だてです。消灯の時刻を1時間早めるだけで収まる場合があります。工事は要りません。
- 4向きと角度を変える
面を数度ふると、光の当たる先がずれます。取り付けの金具で動かせることがあります。
- 5覆いや庇(ひさし)を足す
光の上下を切る板を足します。面そのものは残したまま直せます。
- 6位置を動かす、作り替える
足場や車両が要り、費用がいちばん大きくなります。ここまでで収まらないときに検討します。
上から順に、費用の軽いものが並びます。1番と2番は歩いて行くだけ、3番はスイッチひとつです。 4番と5番で収まる例も多く、面を作り替えるところまで進むのはまれです。
記録を残す意味は、あとで思い出すためではありません。 いつ、どの天気で、どの時刻に見えたか。4項目が並ぶと、光なのか反射なのか、原因の見当がつきます。 同じ相手から二度目の話が出たときに、前回の紙が話を早めます。
よくある失敗5パターン
いずれも、発注の前に気づけば直せます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 夜の見え方を確かめずに掲げた | 隣の居室へ光が入り、翌週に連絡が来る | 消灯の時刻を早める。時計で切る仕組みを足す |
| 工事の日を当日に伝えた | 車を止める場所で行き違いが起きる | 日にちと車両の内容を、紙にして先に渡す |
| 出幅を図面だけで決めた | 境界の外へ出て、付け直しになる | 真下から見上げて、出ている量を測る |
| 隣の表示を隠す位置に付けた | 先に出ている看板が読めなくなる | 高さをずらす。面を隣から遠い側へ寄せる |
| 受ける人を決めていなかった | 答えが人によって変わり、話が長引く | 受ける人と、即答してよい範囲を先に決める |
セルフチェックリスト
図面が出てきた段階で使ってください。5つ以上「いいえ」があれば、見直しの余地があります。
- 夜の時間に、隣の建物の窓の前から看板を見た
- 向かいの歩道に立ち、面の正面が誰を向くかを確かめた
- 隣が先に出している看板やのれんを隠していない
- 曲がってくる車と自転車の目線で、見通しを確かめた
- 出幅が境界の外へ出ていないことを、真下から測った
- 読ませたい距離から、必要な文字の高さを計算した
- 消灯の時刻を決め、光を切る手だてを用意した
- 工事の日にちと時間帯を、周りへ前もって伝えた
- 止める車の種類と台数を伝えた
- 掲出のあとで直す場合の費用を、一度計算した
- 苦情を受ける人と、即答してよい範囲を決めた
- 記録に残す項目を、紙の形で決めた
よくある質問
看板を出す前に、近隣へ何を伝えればいいですか?
光のもれは、どこまで気にすればいいですか?
近隣の同意は、手続きの上で必要ですか?
工事の音は、どれくらい前に知らせますか?
掲げたあとで苦情が出たら、何から手をつけますか?
予算が限られる場合、何を優先しますか?
まとめ
掲げるまでに踏む手順を、5行に畳みました。
| 1 洗い出す | 光、視界、音、はみ出し。届く先を並べて書き出す。 |
|---|---|
| 2 確かめる | 離れる距離と角度で、感じ方の話を数に直す。 |
| 3 知らせる | 車を止める日と音の出る日を、紙にして先に渡す。 |
| 4 計算する | 掲げ直しの費用を、粗利の件数へ置き換えてみる。 |
| 5 決めておく | 受ける人と、軽い手だてから試す並びを用意する。 |
いちばん安い対策は、暗くなってから隣の窓の前に立つことです。 そこで気づいた1点は、たいてい取り付けの前なら費用がかかりません。 図面ができた日の夜に、その場所まで歩いてみてください。