看板を自作するか頼むか
線引きを決める5ステップ
開業の準備で、看板の費用を抑えたい方へ。 自作か発注かは、好みではなく条件で決まります。 決めているのは二本の線です。安全と法規で動かせない線と、何年持たせたいかで動く線。 この二本を引けば、自分でやる範囲は自然に残ります。
安全と法規の面から、先に外しておく三つの作業/ 数日・数か月・数年・10年で、作り方がどう変わるか/ 屋外で雨と日射がそれぞれ何を起こすか/ 自分の時給の出し方と、作業時間を金額に直す式/ 月あたりの費用を、必要な新規客数に置き換える計算/ デザイン・製作・取り付けを分けて頼む組み方/ 掲出した後に測る方法と、効かないときに疑う順序
自作と発注は、二者択一ではない
看板は、全部作るか全部頼むかの二択で語られがちです。 実際には、工程ごとに分けて頼めます。 原稿だけ頼む、取り付けだけ頼む。そういう組み方が選べます。
判断のときに起きやすいのは、次の四つです。 材料費だけを見て、自作のほうが安いと決める。 屋内向けの紙を外へ出し、数日で読めなくなる。 脚立に上がる作業まで自分で抱える。 許可の要否を調べないまま、先に作ってしまう。
どれも、着手の前に手を打てば起きません。 やれない三つを外し、年数から作り方を決め、時間を金額に直し、分けて頼み、測って直す。 この五つを順に埋めていきます。
自分でやれない三つを、先に外す
この三つは、腕前や熱意では動きません。
脚立や足場に上がって取り付ける作業です。落ちれば大けがになります。高さのある場所での作業には、法令上の決まりが関わることもあります。
光る看板を建物の電源へつなぐ作業です。電源に触れる作業には、資格の決まりが関わります。要否と範囲は、有資格者へご確認ください。
道や隣の敷地へ向けて出す表示です。自分で作っても、決まりのほうは変わりません。出す場所と大きさによって、条例上の扱いが変わります。
三つを外すと、残った範囲がはっきりします。 看板の全体を諦める話ではありません。 低い位置に置く、光らせない、敷地の内側に向ける。 条件を変えれば、自分でやれる形へ寄せられます。
高い場所は、上がる前に外す
脚立に上がって留める作業は、慣れの問題ではありません。 片手で本体を支え、もう片方で工具を使う姿勢になります。 バランスを崩したときに、つかまる場所がありません。
手を伸ばして届く高さで済む形に、設計のほうを寄せてください。 高さのある場所へ出す場合の考え方は高い場所の看板工事ガイドにまとめています。
光らせるなら、電気の線を引く
看板を光らせるかどうかで、線の位置が変わります。 電池式や充電式なら、電源につなぐ工事は起きません。 建物の電源から引く場合は、そこから先が別の話になります。
電気の工事には資格の決まりがあります。 どこからが工事にあたるかは、有資格者へご確認ください。
屋外へ出す表示は、屋外広告物としての扱いを受けることがあります。
扱いは、出す場所・大きさ・高さ・形によって変わります。
県の条例が及ぶ地域と、市が独自の条例を持つ地域があります。
自分で作った看板でも、この扱いは変わりません。
※ 許可の要否と手続きは、管轄の窓口へご確認ください。
持たせたい年数から、作り方を決める
材料の良し悪しではなく、期間に合っているかで選びます。
開店日の告知や、その週だけの案内です。屋内なら紙で足ります。外へ出すなら雨のかからない位置に限り、濡れたら替える前提で作ります。
季節ごとに替える案内です。屋外向けの合成紙や、表面を保護した出力を使います。日の当たる面では、色の薄れがこの時期から見え始めます。
店の顔になる表示です。屋外向けの粘着シートと、反りにくい板の組み合わせになります。板の材質と厚み、固定の方法まで含めて決めます。
建物と同じ寿命で考える表示です。下地も金具も面材も、そろって持たなければ意味がありません。設計と施工を分けずに頼む範囲になります。
四つのうち、上の二つは自作が現実的な範囲です。 三つ目から、面材と固定の知識が要ります。
屋外で何が起きるかを知る
屋外の表示を傷めるのは、雨と日射です。 働き方が違うので、分けて見ます。
| 材料 | 雨で起きること | 日射で起きること |
|---|---|---|
| 紙 | 波打ち、繊維がほどける | インクの色が薄くなる |
| 木 | 含水で反り、割れが入る | 塗膜が切れて表面が荒れる |
| 粘着シート | 縁から水が入り浮く | 色が薄れ、糊が硬くなる |
| 板(樹脂・金属) | 切り口から水が回る | 表面の艶が落ちる |
雨は縁と切り口から入り、日射は表面から効きます。 だから、縁の処理と表面の保護が持ちを分けます。 紙をラミネートで挟む、板の切り口を塗る。手当ては小さくても効きます。
色の薄れは、日の当たる時間が長い面ほど早く出ます。 南や西を向いた面では、同じ材料でも差が出ます。
読ませたい距離から、文字の高さを出す
年数と並んで、大きさも自作の可否に効きます。 大きくなるほど、面材も固定も自作の範囲から外れます。
5m先から読ませる → 5,000 ÷ 500 = 10mm / 5,000 ÷ 250 = 20mm → 1〜2cm
20m先から読ませる → 20,000 ÷ 500 = 40mm / 20,000 ÷ 250 = 80mm → 4〜8cm
書体、地との明暗差、照明の有無で読める距離は変わります。 迷ったら、出した幅のうち大きいほうに寄せてください。
自分の時間を、金額に置き直す
材料費だけで比べると、判断がずれます。
自作の費用は、材料費と時間の合計です。 時間のほうは請求書に出ないので、見落とされます。 まず、かかる時間を工程ごとに書き出します。
| 場所を測り、下調べする | 約2時間 |
|---|---|
| 原稿と配置を決める | 約3時間 |
| 材料をそろえる | 約2時間 |
| 作って仕上げる | 約2時間 |
| 取り付けて手直しする | 約1時間 |
合計すると10時間です。 初めて作る場合は、原稿を決める工程がここより伸びます。
自分の時給を出す
時間を金額に直すには、自分の時給が要ります。 店の粗利を、働いた時間で割って出します。
月の粗利 300,000円 ÷ 200時間 = 時給1,500円
この300,000円と200時間は、仮の置き方です。 自分の帳簿の数字に差し替えて計算してください。
材料 9,000円 + 15,000円 = 合計24,000円
材料費が全体の4割ほどしかない、という形になります。 この9,000円も相場ではありません。 足し算の動きを見るために置いた、仮の数字です。 掲載社が公式サイトで公開している金額は、看板の費用に種類別にまとめています。
何人来れば釣り合うかに直す
総額のままでは、他の使いみちと比べられません。 持たせる月数で割って、月あたりに直します。
24,000円 ÷ 24か月 = 月1,000円
月あたりのコスト ÷ (客単価 × 粗利率) = 月に必要な新規客数
1,000 × 0.5 = 500
1,000 ÷ 500 = 月2人
30 ÷ 2 = 15日に1人
客単価を1,000円、粗利率を5割と置いた場合です。 15日に1人が新しく来れば、この看板は釣り合います。
同じ計算を、頼んだ場合の見積額でもう一度します。 二つの月あたり額を並べれば、差が見えます。 その差より自分の10時間が高いなら、頼んだほうが得です。
混ぜて頼む形を、組み立てる
工程は分けられます。全部を渡す必要はありません。
看板づくりは、原稿・製作・取り付けの三つに割れます。 どこを渡すかは、STEP1で外した三つと、STEP3で出した時給で決まります。
| 頼む範囲 | 自分がやること | 頼むこと |
|---|---|---|
| デザインだけ頼む | 材料の手配と、低い位置での取り付け | 原稿の設計と仕上がりデータ |
| 製作だけ頼む | 原稿の用意と、置く場所の確保 | 出力と加工、面材の選定 |
| 取り付けだけ頼む | 本体の用意と、当日の立ち会い | 固定と、高さのある場所の作業 |
| まとめて頼む | 要件を言葉で伝える | 設計から施工までの一式 |
取り付けだけ頼む形が、いちばん組みやすい入口です。 危ない工程だけを外せて、他は手元に残せます。 逆に、原稿づくりで手が止まりがちなら、デザインだけ頼む形が向きます。
頼む前に、要件を言葉にする
分けて頼むほど、伝える精度が要ります。 次の五つを書き出して渡すと、話が早く進みます。
出す場所と、そこまでの距離。 持たせたい年数。 載せる言葉。 電源の有無。 取り付けの高さ。
この五つは、STEP1からSTEP3で決めた内容そのものです。
ロゴの元データがあるなら、渡すだけで製作に進めます。 画面用の小さな画像しかない場合は、引き伸ばすと輪郭がぼやけます。 印刷に耐える形へ作り直す工程は、頼む側へ回したほうが早く済みます。 渡し方の詳細は看板の入稿データの作り方にまとめています。
掲出後に測って、次の作り方を決める
一枚目は試作です。測れば、二枚目の判断材料になります。
出した日から、新しく来た人を手元の紙で数えます。お金はかかりません。数え始めた日を書いておくと、後で比べられます。
会計のときに一言だけ聞きます。看板と答える人の割合が、そのまま面の働きです。全員に聞かなくても傾向は出ます。
出し入れするものなら、出した日の来客を書き留めます。天気と曜日をそろえて比べてください。
店の情報を登録していれば、表示された回数や経路検索の数が見られます。看板だけの成果ではありませんが、動きは分かります。
上から順に、手間の軽い方法です。 四つ全部をやる必要はありません。一つ選んで続けるほうが、後で役に立ちます。
見る時期を決める
| 1週間 | 出す位置と向きを見直します。数はまだ比べられません。 |
|---|---|
| 1か月 | 数えた人数がそろいます。天気の偏りが残る時期です。 |
| 3か月 | 前の3か月と並べます。ここで初めて傾向が読めます。 |
| 1年 | 色の薄れと傷みを見ます。作り方を選び直す時期です。 |
1年目に見た傷み方が、二枚目の作り方を決めます。 半年で色が飛んだなら、その面には表面の保護が要ります。 1年たっても読めているなら、次も同じ作り方で足ります。
効かないときは、この順で疑う
- 1出す位置と向きを変える
費用はかかりません。歩いてくる方向から見えているかを、自分の足で確かめます。
- 2汚れと傾きを直す
拭いて、まっすぐに立て直します。手入れの跡が無い表示は、店の印象まで下げます。
- 3載せる言葉を減らす
業種と店名の二つまで削ります。歩く速さでは、それ以上は読まれません。
- 4文字を大きくする
読ませたい距離を測り、250分の1から500分の1で高さを出し直します。
- 5地と文字の明暗差を付ける
薄い地に薄い文字だと沈みます。色を替えるだけなら、作り直しにはなりません。
- 6出す時間帯を変える
人が通る時間に出ていたかを見ます。出し入れの時刻を書き留めてください。
- 7作り直す
上の六つを試した後で検討します。ここで初めて、頼む範囲を決め直します。
上のほうほど、お金をかけずに直せます。 1番から3番までは、その日のうちに手を付けられます。 作り直しを最後に置いているのは、そこまで行かずに済むことが多いからです。
置き看板やのぼりは、毎日しまいます。 出した日と出さなかった日が、そのまま比べる材料になります。 最初の一枚を出し入れできるものにしておくと、次の判断が楽になります。
よくある失敗5パターン
どれも、作り直さずに手を打てます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 屋内向けの紙をそのまま外へ出した | 雨で波打ち、数日で読めなくなる | 軒下へ移し、屋外向けの面材に替える。板は替えずに面だけ替えられる |
| 高い位置に自分で取り付けた | 落下のおそれが残り、直すたびに上がることになる | 低い位置へ出し直す。高さが要る場所は施工だけ頼む |
| 電源を自分でつないだ | 感電や発熱のおそれがあり、資格の問題も出る | 電池式や充電式へ替える。配線は有資格者に見てもらう |
| 許可の要否を調べずに出した | 後から出し直しを求められることがある | 掲出の前に窓口へ聞く。要件に収まる大きさへ作り替える |
| 自分の作業時間を数えなかった | 材料費だけを見て、安く済んだと判断してしまう | 時間 × 自分の時給を足して比べ直す。次の一枚から適用できる |
セルフチェックリスト
作り始める前に使います。5つ以上「いいえ」があれば、見直す余地があります。
- 取り付けたい高さを測り、脚立が要るかどうかを確かめた
- 光らせるかどうかを決め、電源につなぐ作業の有無を分けた
- 出す場所と大きさを書き出し、許可の要否を窓口に聞いた
- 何年持たせたいかを、数日・数か月・数年・10年から選んだ
- 雨のかかり方と、日の当たる時間を現地で見た
- 読ませたい距離を測り、文字の高さを計算した
- 載せる言葉を、業種と店名の二つまで削った
- 自作にかかる作業時間を、工程ごとに書き出した
- 自分の時給を出し、作業時間を掛けて金額に直した
- 材料費と時間の合計を、持たせる月数で割った
- デザイン・製作・取り付けのどこを頼むかを決めた
- 掲出した日を記録し、数える方法を一つ決めた
よくある質問
看板を自作するか、何から決めればいいですか?
どこまで自分で作れますか?
自作のほうが安く済みますか?
許可や手続きは要りますか?
効いているかは、どう判断しますか?
予算が限られる場合、どこから手を付けますか?
まとめ
自作と発注の線引きは、次の順序で決まります。
| STEP1 安全と法規で外す | 高い場所、電源につなぐ工事、許可が要る掲出。 |
|---|---|
| STEP2 年数で作り方を選ぶ | 数日は紙、数年は板とシート、10年は下地から。 |
| STEP3 時間を金額に置き直す | 作業時間 × 自分の時給を、材料費に足して比べる。 |
| STEP4 工程を分けて頼む | デザイン・製作・取り付けのどこを渡すかを選ぶ。 |
| STEP5 測って次を決める | 掲出日を記録し、3か月ぶんを並べて次を決める。 |
自作を選んでも、頼むことを選んでも、判断の材料は同じです。 安全と法規の線を先に引き、残った範囲を年数と時間で割り振る。 この順番で考えれば、どちらを選んでも後悔は残りません。